中印対立激化は日本に好都合
Japan In-depth / 2019年7月3日 7時34分
■ 中印対立の深刻化
中尼鉄路は中国の力量を南アジア方面に吸い取らせる。
第1は中印対立を深刻化させる効果だ。
中尼鉄路によりネパールへの中国の影響力は一挙に増す。ネパールには本格的鉄道はない。物流は自動車と航空機に依存していた。そこに中国鉄道網が延伸するのだ。経済活動における中国要素は急増する。中国との交易や中国物資は従来以上の存在感を示す。またそれにより政治面での中国の影響力も増大する。
インドはそれを無視できない。「ネパールは自国勢力圏である」。インド人はそう見ている。そのネパールが中国側に傾く。これはインド国民にとっては中国の侵略と自国領土の喪失に見えるのだ。
このためインド政府は中国に対し強硬的立場に転じる。インド政治体制は民主主義である。しかも大衆迎合的な傾向も強い。国民感情は放置できない。つまり鉄道は中印関係の不安定、敵対化をもたらす。両国はもともと国境紛争を抱えている。その上にネパール問題が生じるのだ。
中国もそれに対応せざるを得なくなる。強硬化する大国インドとの対立に軍事力や外交力を費消させられるのである。
■ 国内民族性矛盾の増大
第2の効果はチベットでの民族性矛盾増大である。
中尼鉄路の建設は中国のチベット統治も向上させる。
これまでチベットにおける中国化は限定的であった。なにより辺境かつ交通不便である。中国経済や文化の伝播は遅い。だが、中尼鉄道整備はその状況を変える。経路に当たるチベット鉄道輸送力も強化される結果だ。中尼鉄道整備では建設中の日吉鉄路が完成するだけではない。既存の青蔵鉄路、拉日鉄路も強化される。(※1)
当然だが中国化も進む。交通網での連接強化により中央の影響力も拡大する。これは民族性矛盾を拡大させる。チベット統治や中国化の進展は現地慣習と衝突しチベット人の不満と抵抗を産む。中国はチベット人の抵抗を敵視する。あとはエスカレーションだ。いずれは新疆と同様の事態が生じる。かつての伊塔事件(※2)のような逃散や今の新疆における宗教圧迫の事態も生じる。(※3)
これも中国の足を引っ張る。鉄道建設により中国のチベット統治が進展する結果、チベットは以前よりも不安定となる。やはりその対処に中国は力を吸い取られる。
▲写真 中国の強気は自身を泥沼に引き込む効果をもつ。これは先例がある。例えば2014年のベトナム沖での石油資源開発。強硬策で進めた結果ベトナムの激越な反応をうけた。写真はベトナム国内における対中抗議デモ(2014年11月5日 ハノイ)。出典:flicr ; VOA (Public domain)
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