中印対立激化は日本に好都合
Japan In-depth / 2019年7月3日 7時34分
■ 中国の強硬化
第3は中国を強気にする効果である。
従来、中国は南アジア方面にはあまり強く出ていない。例えば1962年の中印紛争はその好例だ。中国主張の国境線を回復したあとには解放軍は後方に下がった。
これも中国輸送力の限界による。例えば軍事面ではチベットやインド国境に大軍を展開できない。また兵站能力から大規模な軍事行動がとれない。それが中国消極策の要因だ。(※4)
しかし、その構造は変わる。
中尼鉄道完成により中国の潜在的な行動力は向上するためだ。南アジア方面への大量輸送が可能となる。その物質的利益により政治、経済、軍事面での選択肢が増える。可能行動の幅が広がるのだ。
これは中国の態度を強気にする。あるいは強硬策採用の誘惑を与える。例えばネパールやブータンへの影響力扶植、パキスタンとの軍事協力推進、チベット統治強化、中印東部国境での冒険的施策の実施だ。
そして中国が南アジア内陸部に足をとらされる要因となる。中国が強気となれば中印衝突や民族性騒乱は起きやすくなる。また事態発生時のエスカレーションも起きやすくなるのだ。
▲写真 一帯一路の進捗は順調だ。その勢いは止まらないだろう。日本国内では現地の反発が強調されるが現地政府は前のめりだ。しばしば言及されるスリランカ対外債務の問題にしても対中債務より対日債務の方が大きい。写真はハンバントタ港。返済不能により99年間の貸与が決まった。(撮影:Deneth17)CC BY-SA 3.0
■ 中尼鉄路は日本にとって好都合
以上が中尼鉄路がもたらす効果である。
日本の対中強行派は一帯一路を問題視している。だが日本の立場からみれば中国の進出方向・脅威の西方化を意味する。好ましい事態である。
その点で敵視すべきではない。中尼鉄路の例なら中印が衝突しても日本は何も困らない。むしろ南アジアやインド洋において帝国主義的傾向すら見受けられるインド支配力の減衰も同時に見込める。
あるいは投資してもよい。まず損はない。ネパールとの鉄道事業は利益を産む。また中国は日本からの借金は面子にかけても返す。これは対中ODAの前例であきらかである。
※1)例えば次の記事ではチベット地区全体における鉄道網強化が論じられている。
方華「拉日鉄路拡能改造法案研究」『鉄道与運輸経済』41.4(中国鉄道科学研究院,2019)pp.47-51,125.
なお、中国鉄建の基金に基づく研究である。
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