パフォーマンス理論 その14 量と質について
Japan In-depth / 2019年7月9日 7時0分
ある年齢まで競技を続けたほとんどの選手が量より質に走るが、一方で質を追えるようになったのは過去に量を走って動きの精度を高めたり、または量を走ることで量には意味がないと気づくことができたからという可能性もある。また量を追いかけることで心理的な限界値が広がり、その後のトレーニングを楽に行えるようになっていることもありえる。ダンアリエリーが自身の体験から、人生のある時期に継続的に痛みを受けた人間は痛みに対しての許容度が大きくなるという実験を紹介しいている。実感としても根性にはそれなりに技術があって、例えば数字をカウントダウンすることなどで意識をずらすと感覚的には少し限界値を先に伸ばすことができる。こういった技術を量をこなすことで体得している可能性はあるので、量は人生のある時期に必要なことなのかどうかの結論は出ていない。
質のメリットは実戦に近いので、そのままパフォーマンスの向上に役立つことだろう。デメリットは質の向上は技術によって支えられているので、技術が高まらなければいつまでたっても質が上げられないことだろう。技術的に未熟な選手がトップ選手の真似をする場合があるが、多くは練習不足に陥る。熟達者は95%程度の力が出せるが、未熟者は70%しか出せないとする。そうなると同じ100m×2本でも負荷に大きな違いが現れる。量は誰にでもできるが、質はそれなりに技術が高い人間にしかできない。
私なりに分析したところでは、日本人は積み上げ式で物事を考える傾向にある。値段を決めるにも原価を積み上げていって価格を決めることが多い。同じように練習も必要なものを積み上げていくことが多く、それが当初決めていた練習時間を上回るとその練習時間を伸ばして全部を入れようとすることが多くある。つまり限界の概念が弱く、仮にリソースが足りなくなれば限界の方をいじって何とかしようとしてしまうので量が増えてしまう傾向にある。もう一つは、成果よりも実感(疲労感)や姿勢を重視してしまうことが上げられる。スポーツの爽快感そのものを求めれば量は多くてもいいし、頑張っているという姿勢を皆が共有することは快感ですらある。特に日本は母性的な側面が強く、どうしても同調圧力で包まれがちになるので、量が肯定される文化的条件が揃っているのだと思う。
質の練習は結局技術の向上と、そして何が重要で何が重要ではないのかの取捨選択によって成否が決まる。自分はどんな勝利条件で競っていて、何が強みなのかが理解できていない人間にとっては質の定義は難しいと思う。あれもこれも必要なら結局それは量にならざるを得ない。
トップ写真)Pixabay Photo by harutmovsisyan
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