パフォーマンス理論 その21 ゾーンについて
Japan In-depth / 2019年7月16日 7時0分
為末大(スポーツコメンテーター・(株)R.project取締役
【まとめ】
アスリートがパフォーマンス中に強く集中し、主体の曖昧さ、演じる自分と観察する自分の分離が起きる現象をゾーンという
ゾーンは意識的に入れるものではなく、対象物に夢中になっている時に起こる
パフォーマンスの技術が無意識に出てくる状態がゾーンに入る前提
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アスリートなどパフォーマーがパフォーマンスを行う際に強く集中した状態のことは、ゾーンと呼ばれている。フローと定義が近いと思うが、実際のところはゾーンがなんなのかはよくわかっていない。アスリートはよく記憶の後付け再構成をするから、もしかしてただパフォーマンスが高かった時に高揚して自分の体験を美化しているのかもしれない。奇跡の脳というもののなかでジルテイラーが、脳卒中になった時に自分と自分が手をついている壁との境目がわからなくなった、そしてそれは幸福な体験だったと語っている。このような自分と外界との協会が曖昧に感じられる現象とゾーンが近いのではないかと私はひそかに考えているが、科学的にどう観測するかは相当に難しいらしい。ここでは、一応ゾーンは存在するのではないかという前提で話を進める。
古くは、オイゲンヘイゲルの弓と禅や、世阿弥の風姿花伝で語られているように、主体の曖昧さ(自分が弓を打っているのか弓が自分に打たせているのか)、または演じる自分と観察する自分の分離などがあげられる。球技系の競技では上から見ているようだったとか、球が止まって見えたとか、仲間が息を吸ったのがわかったとか、格闘技では相手が次に何をするかがわかっていて戦っていたなどがある。思うに、他者に評価をゆだねるような演技系競技では、自己の分離が起きやすく、タイムを追うような陸上型では自意識が曖昧になりやすく、球技系は全体把握や仲間との連携、格闘技では相手の心が読める、などが起きやすいのではないかと思っている。それぞれ競技毎に必要なものが強く感じられるのではないだろうか。私は陸上の経験しかないので、自意識が曖昧になる感覚が強いと思っていただきたい。
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