パフォーマンス理論 その21 ゾーンについて
Japan In-depth / 2019年7月16日 7時0分
ゾーンにどうやれば入れますかと時々聞かれるが、準備はできても意識して入ることはできないと私は思う。ゾーンは睡眠に近く、布団に入りリラックスするところまではできても、この瞬間に意図的に寝るぞと言うことはできない。もっと言えば寝ることを忘れた時に寝ているのと同じように、ゾーンに入るときはゾーンに入ろうとしていることを忘れ、対象物に夢中になっている。ゾーンとは良い準備の結果なのだと思う。
人は何かを考えるときその対象物と距離を取る。頭で何かを思い浮かべる時に浮かべているものと観察する自分とは距離がある。対象と自分が全く一致している時にそれは観察しようがない。そして人間は基本的にはいつも様々な考えがバブルのように自分の頭の中に常時浮かんでは消えることを繰り返していて、それをコントロールはできていない。私のゾーン体験はこの距離をとって考えている自分がなくなり、自分が行為そのものになったという感覚だった。ゾーン体験も最中にそうだと意識されるわけではなくレースが終わって振り返った時にぼんやり感じられるというものだった。本やゲームに夢中になって気がついたら1時間経っていたという、あれに近い。私のゾーン体験は、しているという状態がなく、いつの間にかしていた、または気がついたらしてしまっているというのに近い。
意識のベクトルが対象に向いている時は問題ないが、意識が自分に向いたりまたは他者に向いた時にゾーンは阻害される。つまり将棋で言えば将棋の盤を見てどう駒を動かそうかと試行錯誤している間はゾーンに入りやすいが、考えている自分は外からどう見えているのだろうかという外への意識や、もしこれで負けたらどうなるんだろうはゾーンを阻害する。いまここはゾーンを促し、過去と未来と他人は阻害すると思ってもらうといいかもしれない。あれだけ簡単に二足歩行はできるのに、卒業式でみんながこちらに目を向けているとどう歩くのが正しいのかを考えて人は混乱し動きが滞る。ゾーンの際に我に返ってはならない。”いまここ”から離れた時にゾーンは壊される。
具体的にはどうすればゾーンに”入りやすい状態”を作れるのか。まず何よりもその行為をすること自体を忘れられるようになっていなければならない。ペダルを漕ぐことに一生懸命な人間は、風景を見渡して観察することはできない。自分が行うスポーツの技術が無意識に出てくるようになっていることがゾーンに入る前提となる。その状態でさらに自分の体調が優れていなければならない。自分の体を動かすこと自体が心地よいと思えない状態では、動きのことが気になって没頭できない。
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