控えめな「ヨーロッパ統合の父」 今さら聞けないブレグジット その2
Japan In-depth / 2019年7月21日 0時19分
林信吾(作家・ジャーナリスト)
林信吾の「西方見聞録」
【まとめ】
・戦後復興最大のテーマは東独の「分離独立」と西独の鉱工業の復興。
・ドイツ復興と仏のジレンマの解消に欧州石炭鉄鋼共同体が発足。
・「ヨーロッパ統合の父」ジャン・モネの手腕と人柄。
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2012年、EUに対してノーベル平和賞が授与された。この年は日本人受賞者(山中伸弥享受。IPS細胞の発見により、生理学・医学賞)が出たこともあって、わが国ではあまり話題にならなかったが。
平和賞に値する、とされた理由のひとつは、二度の世界大戦を含めて、過去400年にわたって幾度も大戦争を繰り返してきたフランスとドイツが、今や協調してヨーロッパに「国境なき国家連合」を創り出した、というものである。
たしかに、ヨーロッパの統合とは、「ドイツの鉱工業とフランスの農業との結婚によって生まれた嫡子」だと言われる。いつ誰が言い出したのかは、残念ながら信頼すべき資料がなく、よく分からないのだが。
具体的に、どういうことか。
1945年に第二次世界大戦が終結した後、戦勝国=連合国にとって最大の課題となったのは、ヨーロッパ中部平原に盤踞し、一度ならず二度までも「戦争の震源地」となったドイツの脅威を、いかにして取り除くかということであった。
そしてよく知られる通り、ドイツは、米英軍の占領下にあった西側と、旧ソ連軍の占領下にあった分断状態を固定化する形で、分断国家となったのである。1949年5月にドイツ連邦共和国=西ドイツが、同年10月にはドイツ民主連邦共和国=東ドイツが、それぞれ独立した。
ヨーロッパにおいても、戦後復興は最大のテーマであったが、当時の西ドイツの復興は困難をきわめるだろうと、衆目が一致していた。ドイツ製品の大きな市場(中・東欧圏)をソ連に奪われた上、農業地帯が東ドイツとして「分離独立」してしまったのだから。
頼れるとすればフランスの豊富な農作物だが、当時の西ドイツに外貨獲得手段などなく、対価を払わねばならないとすれば、鉱山でも割譲するしかない。しかし、それでは復興がますます遠のくばかりである。
一方のフランスも、ジレンマを抱えていた。復興のためにドイツの豊富な鉱物資源は、喉から手が出るほど欲しいのだが、その結果、西ドイツの鉱工業が一気に立ち直ったら、早晩ドイツ再統一から再軍備を目指す動きともなりかねない。
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