パフォーマンス理論 その28 トレーニングとの距離について
Japan In-depth / 2019年7月23日 7時0分
為末大(スポーツコメンテーター・(株)R.project取締役
【まとめ】
盲信状態に入らないようにするのに有効なのは、教養とそれから友人の多様性だ。
研究者として客観的に物事を捉える考え方と競技者としての考え方の整理がつけられない場合、競技力向上の妨げになることがある。
研究者と競技者の両者を使い分けられず、どちらかしかないとしたら、信じて突っ走るというやり方が効果的。
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25年の競技生活の間に様々な練習法と出会った。取り入れてうまくいったものも、そうではないものもあった。いろいろ試してみた自分の経験から言えることは、全てを解決してくれるような魔法のようなトレーニング法はないということだ。どのトレーニング法も理論も、必ずいいところと悪いところがある。いや違うこれだけは今までにない理論なんだと思っても、歴史を振り返るとだいたい似たものがあったり、または違う世界ですでに使われていることもある。王道はいつも地味だ。
私も一つのトレーニング理論に傾倒したことがある。そのあと調子を崩したが、これは決してそのトレーニング理論自体がよくなかったわけではなく私自身の問題が大きかったと思っている。私自身が全ての自分の考えを明け渡してその理論に傾倒しすぎてしまったが故に、本来の走りを全部書き換えてしまったことで調子を崩した。このように何かに傾倒し、盲信してしまう状態に入った時、選手の心理はどうなるのか。当時考えていたことを整理すると以下のようなものだった。
・私はついに真実を知った。
・私には真実がわかっているが、みんなはわかっていない。
・この練習は正しいが、理解できない人たちは見当違いの批判をするだろう。
というものだった。1、2年経ってある日自分でも驚くほど冷静になって、元の練習に戻った。
その後自分の心理に興味を持っていくつか本を読んだが、カルトにハマる時の心理に似ていた。興味深い点は、対象が選手を依存させている側面もあるが、むしろ私の場合は自分の中に迷いや空白があり、その部分が依存する対象を求めていたように思う。トップの世界に近くなると、適当にしている選手が活躍したり、科学的根拠のある練習をしたはずなのに調子が悪くなったりと、何が正しいことなのかがわからなくなる。そうして答えのない状態に耐えきれなくてなんでもいいからはっきりと言い切ってくれるものに助けを求めてしまいがちになる。
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