英仏「信念の政治家」の相克(上)今さら聞けないブレグジット その5
Japan In-depth / 2019年7月31日 18時0分
林信吾(作家・ジャーナリスト)
林信吾の「西方見聞録」
【まとめ】
・ドロールとサッチャーは多くの共通点を持つ。
・懇願されての社会党入党したドロールだが「異端の左翼」だった。
・EU委員長では、ヨーロッパ統合推進に強い信念。
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ジャック・ドロールとマーガレット・サッチャー。まったくの偶然ながら、ヨーロッパ統合をめぐって激しく対立した二人の政治家は、どちらも1925年生まれの同い年であった。
サッチャーの方は日本でも有名だが、ドロールはあまり知られていないようだ。しかしながら、マーガレット・サッチャーが英国憲政史上初の女性首相であり、サッチャー革命とまで言われた構造改革の立役者であるなら、ジャック・ドロールは初代EU委員長で統一通貨ユーロを誕生させた立役者なのである。
色々な意味で、二人はよく似ていた。
まず出自だが、サッチャー(旧姓はロバーツ)はイングランド北部のグランサムという田舎町の、小さな雑貨屋の娘。ドロールはパリ11区の労働者街で生まれ、父親は国立銀行の職員。ただし一介の集金係で、こういう人は「行員」と呼ばれないらしい。
サッチャーはオックスフォード大学を出て、製薬会社勤務を経て政界に進み、ドロールは国立銀行の事務職員として働きながら夜学に通い(ストラスブール大学に合格していたが、街がナチス・ドいつに占領されたため、勉強どころではなかった)、まずは金融界で名を上げ、やがて本シリーズですでに紹介したジャン・モネに見いだされて政界進出への足がかりを得た。
▲写真 マーガレット・サッチャー首相 出典:Nationaal Archief
英国は昔も今も、凝然たる階級社会であり、一方フランスは、日本以上の学歴エリート社会である。そうした中で、彼らのようなノン・エリートが出世するには、人並み外れた努力が必要だっただろうし、現に二人は努力してきた。
そのせいか、妙に権威主義的なところまで似ていると、意地の悪いフランスの政治ジャーナリストたちは書きたてたものだ。ただしドロールの場合は。前述のような経歴から「労働者階級出身の、刻苦勉励型の政治家」を思い描くと、彼のパーソナリティとは一致しない。
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