私のパフォーマンス理論 vol.36 -乗り込みについて-
Japan In-depth / 2019年9月14日 7時0分
為末大(スポーツコメンテーター・(株)R.project取締役)
【まとめ】
・走速度のほとんどは、乗り込む瞬間の精度により決まる。
・うまく乗り込むには、しなりとたわみがある力の入れ方が重要。
・乗り込みの精度を決めるのは、腹圧。
【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=47884でお読みください。】
走るという行為において唯一加速できるのは地面が足に着いている局面だ。その中でも自分の体重をかけて地面に圧をかけている瞬間が、走速度のほとんどを決める。挟み込みや、腕振りなど様々な技術があるが、短距離選手の技術練習はこの乗り込む瞬間の精度を高めることに向かっていると言っても言い過ぎではない。
乗り込むという行為をもう少し詳細に説明すると、立位の状態で自分の体重を自分の足を通して地面に伝えその反発を体にもらうこと、になる。実はこのような理解をすれば立位で行うほとんどのスポーツにはこの乗り込むという要素が入っていることに気づく。陸上競技で言えば、走るという行為は、この乗り込みで得た力を身体に伝え前方方向への移動に転換することだ。乗り込みで得た力を上方に跳ね返せば高飛び、やや前方に運べば幅跳び、さらに低く抜ければ三段跳び、ほぼ水平に抜ければハードルになる。バスケットのレイアップは乗り込みで得た力を上方に、野球の外野からの送球は乗り込みで得た力を上半身に伝えボールを投げ、サッカーのシュートは乗り込んで得た力を逆足のキックに伝える。乗り込みは立位で移動を伴う全ての動作の根幹を支えている。私からは乗り込みの力を何に転用するかで競技が分かれているように見える。
いい乗り込みができれば脚は道具化するし、足が道具化しないといい乗り込みはできない。腰から下の部分が硬いゴムのような柔軟性がありつつ押されれば反発する状態にして、そこに下っ腹の丹田周辺で体重を乗せる。そうすると、足はややたわみながらけれども膝・足首関節角度はあまり変わらず耐え、そして反発する。股関節も乗り込んでいる時には積極的に動かしているというよりも圧に耐えているのに近い。熟達者の走局面において脚は押されれば固まり、力を抜けば弛緩するような状態になっている。昔アシックスが力を加えた時だけ硬くなり、普段は柔らかい流体のアルファゲルという素材を使った靴を出したが、あの素材に少し似ている。
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