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奇跡の集落「やねだん」とは 「地域再生の神様」豊重哲郎氏 上

Japan In-depth / 2019年11月25日 10時35分

奇跡の集落「やねだん」とは 「地域再生の神様」豊重哲郎氏 上


出町譲(経済ジャーナリスト・作家、テレビ朝日報道局勤務)


【まとめ】


・鹿屋市柳谷地区では町内会長の豊重哲郎氏の下、地域再生を実現。


・サツマイモづくりや焼酎の販売で自主財源を確保。


・地域活動では「全員野球」にこだわる。


 


■ 地域の絆を再生せよ


鹿児島空港の近くでレンタカーを借りた。2時間ほど運転し、大隅半島の付け根にある集落にたどり着いた。ここは、鹿屋(かのや)市の柳谷地区、通称〈やねだん〉だ。人口はわずか300人の小さな集落である。この集落は、20年数前までは消滅の危機だった。若い人は離れ、急ピッチで高齢化が進展していた。


ところが、いまや再生し、「奇跡の集落」と呼ばれている。一人のリーダーが牽引した。自治公民館長、いわば町内会長の豊重哲郎だ。豊重は「地域再生の神様」ともいわれ、行政関係者らが年間5000~6000人、視察している。



▲写真 豊重哲郎 出典:著者提供


UターンやIターンが相次ぎ、高校生以下の子供は集落の人口の1割以上になった。


「人口が減るのは仕方ないが、その人口の中身を変えていくのが重要です」

 今では、こう胸を張る豊重だが、公民館長に就任した1996年当時は視界不良の中でのスタートだった。当時公民館長のポストはだいたい65歳ぐらいの人が持ち回りだったのだが、55歳の豊重に白羽の矢が立った。


就任直後に出納帳を見て愕然とした。預金1万円、現金はゼロだった。


「集落を再生させるためには、まずは自主財源が必要だ」。早速着手したのは、サツマイモづくりだった。しかし、当初住民らの間では反発もあった。サツマイモは重く、高齢者にとって収穫は重労働だからだ。


そこで、実際の労働は高校生に任せることにした。「自主財源ができれば、オリックスのイチロー選手の試合を見に行けるぞ」と呼びかけた。ピアスをしたり、髪を染めたり、不良のような恰好をしていた高校生だったが、その「誘い」に飛びついた。


高校生は夕方になると、サツマイモ畑に姿を現した。ぎこちなく農作業に汗をかいていると、高齢者が吸い寄せられるように集まる。かつて培ったノウハウを教えるためだった。高校生と高齢者が交わっていると、登場するのは、高校生の親たちだ。農作業でお腹のすいた子供たちにおにぎりなどを持参する。


サツマイモ畑の畝では高校生、高校生の親たち、高齢者と「三世代」が汗を流し、談笑する場となった。


失われていた絆が徐々に回復したのだ。その結果、最初の収益は35万円となる。豊重さんが約束通り、高校生を引率して、福岡ドームで野球観戦した。鹿児島からバスで向かった。


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