人類と感染症9 スペイン風邪は第二次大戦の要因
Japan In-depth / 2020年4月22日 11時0分
出町譲(経済ジャーナリスト・作家)
【まとめ】
・パリ講和会議中、ウィルソン大統領はスペイン風邪に感染。
・米不在の会議は、ドイツに巨額の賠償を求めることで合意。
・スペイン風邪は社会の歴史をコントロール、第二次大戦を誘発した。
スペイン風邪は、第一次世界大戦の終結を早めたが、皮肉なことに、第二次世界大戦を引き起こす遠因となった。今回は、その背景を描きたい。
戦勝国が話し合うパリ講和会議で、巨額の賠償金がドイツに課せられることになった。それで、ドイツ国内で不満が高まり、ヒトラーの台頭につながった。これは多くの歴史家が一致する見方だ。その歴史に、実はスペイン風邪が深く関与していた。
ある重要人物が会議のさ中、感染したのだ。アメリカのウィルソン大統領だ。ウィルソン大統領といえば、理想主義を掲げ、二度と戦争が起きないように国際連盟の創設を提唱していた。アメリカだけでなく、ヨーロッパでも熱狂的な支持者を持っていた政治家だった。「哲学者でありながら世界中の国々の君主たちを束ねうる武器を持つ、比類なき人物」(イギリスの経済学者、メイナード・ケインズ)という声もあがった。現代でいえば、オバマ大統領のような存在とみる向きもある。
写真)ウィルソン大統領
出典)パブリックドメイン
ウィルソン大統領に異変が起きたのは、1919年4月3日。パリ講和会議が開かれていた最中だった。フランスのクレマンソー首相、イギリスのロイド・ジョージ首相ら少数が密室で会談していた。
『史上最悪のインフルエンザ』(みすず書房)によれば、この日の午後3時、ウィルソン大統領は突然、声がかすれた。午後6時になると、ウィルソン大統領は咳をし始め、息をするのもやっとの様子だった。やがてほとんど歩けなくなり、体温は39・4度になった。ひどい腹痛を伴う下痢にも襲われた。あまりに突然のことだったため、大統領に同行していた医師は毒をもられたと考えた。ウィルソン大統領はこの日一晩中、重篤な状態になった。生死をさまよい、4日半ベッドで過ごした。医師の診断結果は、スペイン風邪だった。
ウィルソン大統領はなんとか生還した。しかし、スペイン風邪の感染は、会議の結論に影を落とす。それまでの激しい対立構図が一変した。
対立構図とは何か。ウィルソン大統領はそもそも、ドイツに賠償金を求めない主張を繰り返していた。理想主義の政治家としては、ドイツに負担をかけすぎれば、世界の平和秩序に悪影響を及ぼすという考えだった。
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