洋画では描けない世界がある(下) 家にいるなら邦画を見よう 6
Japan In-depth / 2020年5月27日 11時0分
この戯曲が幾度も映画化されていて、私が見たのは、1973年版。実に5度目の映画化であった。主人公・坂田三吉を勝新太郎、終生の宿敵となる関根八段を仲代達矢、そして「女房の小春」を中村玉緒が演じている。
私はどうも、関西の人間には点が辛くなる傾向があるらしく、
(こんな奴、身近にいたらぶっ飛ばしものだな)
などと思いながら見ていたが、これもまた映画を見る楽しみというものだろう。他にも藤田まこと、音無美紀子ら豪華キャストで演技は皆、文句なしにうまい。
割と新しいところでは、これも実在の棋士を主人公にした『聖の青春』(2016年)という映画がある。
近年、将棋ブームなどということが言われて、棋士がマスコミに露出する機会も増えてきているが、村山聖という棋士の名前を覚えているという人は、ごく少ないだろう。もちろん、将棋に関心の深い人は別として。
こちらも、大崎善生氏が2000年に発表した、同名のノンフィクション小説(つまり、一部の描写は著者の主観によるもの)を映像化したものである。
映画では、大阪の路上に倒れていた青年が、通行人の助けを借りて関西将棋会館にたどりつくところから話が始まる。
この青年こそ「西の怪童」と呼ばれていた、当時23歳の村山聖七段で、幼少期よりネフローゼという腎臓の難病を患い、無理のきかない体でありながら名人を夢見ていたのだ。
彼にもまた、終生の宿敵がいた。天才・羽生善治名人である。
村山聖を演じたのは松山ケンイチだが、腎臓病からくる体のむくみに苦しむ主人公になり切るべく、わざわざ体重を増やした姿が話題になった。
羽生名人の方は東出昌大が演じたが、こちらも天才棋士になり切るべく、将棋の駒の持ち方から、対局中、相手に鋭い視線を向ける、世に言う「羽生にらみ」の目つきまで、懸命の役作りをした。試写を見た名人が、イケメン俳優が自分の役を演じていることに、恥ずかしさで直視できなかった、などとコメントして笑いをとったのを覚えている。
たしかにあの映画で東出昌大が見せた演技・存在感には私も瞠目させられたが、まさか後年、あのようなことになるとは……あんな美しい奥さんがいながら、なにをしてくれてんだ、などと、つい公私混同してしまうではないか笑。
話を戻して、実在の村山聖は羽生善治を打ち負かすことはできなかったが、映画俳優としての松山ケンイチは東出昌大を圧倒していた。東出もよく頑張っていたが、シャレではないけれど「役者が一枚上」だと言うしかない。
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