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洋画では描けない世界がある(下) 家にいるなら邦画を見よう 6

Japan In-depth / 2020年5月27日 11時0分

自身の健康について、愚痴めいたことは一切言わないのだが、対局後、羽生を誘って居酒屋に足を運んだ際に、


「一度でいいから女を抱いてみたいなあ」


と呟くシーンがある。その一言に込められた万感の思い。これを、さりげなく演じてしまうのが松山ケンイチという俳優のすごいところで、今思い出しても鳥肌が立ちそうだ。


そのように、病魔と闘いながら将棋の名人を夢見続けた村山聖は、28歳で他界する。「青春」というタイトルだが、彼にはその先の人生がなかったのだ。


ここまで読まれた方々には、今さら解説めいたことを書き加える必要はないと思うが、この2本は決して「将棋映画」ではない。そもそもこれを見ても、将棋が強くなるどころか駒の動かし方さえ覚えられない。あくまでも、将棋の魅力に取り憑かれた人間たちが織り成すドラマなので、これはやはり、邦画でなければ描けない世界だと思う。



▲写真 伊丹十三監督(1966年2月)出典:パブリックドメイン


もうひとつ、伊丹十三監督の『タンポポ』(1985年)もオススメしたい。


未亡人のタンポポ(宮本信子)は、亡夫からラーメン屋を受け継いだものの。見よう見まねの素人仕事で、さっぱり客が入らない。そこへたまたま現れた運転手のゴロー(山崎努)が、この店を町一番のラーメン屋にすべく手を差し伸べ、奮闘する物語だ。



▲写真 ラーメン(イメージ) 出典:Pixabay / NaoYuasa


イタリア映画には、リストランテを舞台にした作品もあり、そもそも食べることが大好きという人たちゆえ、おいしそうな飲み食いのシーンは枚挙にいとまがない。


ただ、この映画のように、他店の秘密盗用から、元は開業医でありながら、ラーメンに熱中したあまり身を持ち崩したという、ホームレスの「先生」まで登場する、といった話は、さすがに思いつかなかったようだ。ラーメンという、スープの中に麺とわずかな具が浮かんだだけの面妖な食べ物のために、すさまじいまでの情熱とエネルギーが注ぎ込まれるというのは、イタリア人にさえ理解しがたいことかも知れない。


監督・脚本を担当した伊丹十三自身が「ラーメン・ウェスタン」と称した、はっきり言って了見の分からないドタバタであるし、そもそも映画の評価など人それぞれだろうが、ただひとつ言えることは、


「この映画を見たならば、まず確実に、おいしいラーメンを食べに行きたくなる」


ということだ。今の今まで「家にいるなら邦画を見よう」というコンセプトにそぐわないかも、との思いもあって、紹介するのを控えさせていただいていたが、外出の自粛を促す緊急事態宣言も、ようやく解除される運びとなった。


もちろん、これで新型コロナウイルスの脅威が去ったわけではなく、大変なのはこれからだろうが、ひとまず「自粛疲れ」を癒すためにも、この映画に刺激されて。おいしいラーメンを食べに出かけるのも、悪くないと思う。


トップ写真:松山ケンイチ(左)と東出昌大(右)。第29回 東京国際映画祭 オープニングセレモニー (2016年10月25日) 出典:flickr; Dick Thomas Johnson


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