差別の象徴消しても暴力はなくせない(前編)変わらぬ支配の現実
Japan In-depth / 2020年6月24日 18時0分
リー将軍や、その片腕で猛将として名を馳せたストーンウォール・ジャクソン将軍などは、戦史から見れば名将であり、敗軍とはいえ戦略家としては高く評価されている。
しかし、黒人奴隷の解放を掲げる北軍と戦った彼らの記念碑は、白人至上主義団体クー・クラックス・クラン(KKK)やネオナチ支持者の心の拠り所として神聖化され、しばしば差別に反対するデモ隊などとの衝突の原因になっており、人種間緊張が高まる中でそのまま残しておけないという判断が働き始めている。事実、ノースカロライナ州のロイ・クーパー知事(民主党)は、「公共の安寧上の懸念」を、南部連合の英雄像の撤去の理由に挙げている。
こうした中、首都ワシントン近郊で6月19日、KKKの創設に深く関与したとされる南部連合のアルバート・パイク将軍の像を、デモ隊が引きずり倒して放火した。これを受けてトランプ大統領はツイッターに、「警察は、像が取り壊され燃やされるのを見ているだけで、何も仕事をしていない。こうした者たちはすぐにでも逮捕されるべきだ。わが国の恥だ!」と投稿した。同大統領は2017年8月にも、論争の的となっている数々のモニュメントを「美しい」とツイートし、「銅像の禁欲的な美が各地から失われてしまうのは、非常に残念だ」と嘆いていた。
▲写真 アルバート・パイク将軍の像 出典:Flickr; Cliff
一方、パイク将軍の像が倒された前日の6月18日にはナンシー・ペロシ現下院議長が、南北戦争時に南部連合に属していた元下院議長4人の肖像画を米連邦議事堂から撤去するよう命令し、肖像は実際に取り外された。ペロシ氏は、「南部連合の暴力的な偏見とおぞましい人種差別を体現した男性らを追悼する場所は、連邦議会の神聖な会堂にも、いかなる名誉を称える場にもない」と述べた。
さらに、ニューヨーク市の米国自然史博物館前に設置された騎馬のセオドア・ルーズベルト大統領像は、両脇に先住民と黒人を従えていることから悪名が高く、民主党のビル・デブラシオ市長は6月21日に、その撤去を許可した。
このように、白人による残忍な黒人支配の象徴と見なされた人物の記念碑や絵画を公共の場から撤去することで、「常に平等の理想に向かって前進する米国」という印象を前面に押し出す形となっている。
中身のないパフォーマンスに対する批判
だが、それは収奪的な人種関係の表面を取り繕っているだけだ。南部出身の「偉人」の肖像が撤去された米議会の食堂で調理・配膳をする人々や、清掃スタッフの多くは未だ黒人であり、低賃金で働いている。5年前の民主党オバマ政権時代には、米議会の黒人掃除夫のチャールズ・グラデンさん(当時63)が、持病の糖尿病の医療費がかさんで家を失い、過去5年の間ホームレスであることが報じられてスキャンダルとなった。
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