差別の象徴消しても暴力はなくせない(前編)変わらぬ支配の現実
Japan In-depth / 2020年6月24日 18時0分
彼の週給は360ドル(約3万8500円)に過ぎず、生計を立てていけなかったからだ。慢性の病を患いながら一生懸命働き、夜はワシントンの市バスの屋根付き停留所で寝泊まりするという悲惨さであった。(後にグラデンさんは、黒人有名人の寄付などでアパートに入居したが、富裕層が多い米議員たちに彼を助けようとする者はいなかった。)
そうした状況は現在も当時と変わらず、白人議員やスタッフらのゴミを収集し、彼らの家にオンライン注文したものを届ける配送員たちも、宿泊施設でルームサービスを提供するのも、多くは黒人だ。奴隷解放前の南部のプランテーションや、解放後も人種隔離政策により黒人隷属が徹底されていた様子を想起させる。廃止されたはずの人種の役割や格差が、毎日の生活の中で再確認され、強化されているのだ。
ペロシ下院議長をはじめ、米議会の圧倒的多数派である白人議員たちは、民主党か共和党かを問わず、そうした隷属的な黒人の低賃金労働の恩恵に与っている。そのため、政治の現状を批判する声が上がっている。
たとえば、6月8日にペロシ下院議長たちが連邦議事堂で、白人警官の暴行のため亡くなった黒人男性のジョージ・フロイド氏を悼むため、アフリカ・ガーナの民族衣装「ケンテ」をまとい、抵抗のポーズとされる片膝をつく姿勢で、フロイド氏の首が圧迫されていた時間である9分近い黙祷を捧げたが、シカゴの黒人運動家であるチャールズ・プレストン氏は、「中身のない単なるパフォーマンスで、ばかげている」と斬り捨てた。
▲写真 ペロシ下院議長 出典:Flickr; Gage Skidmore
プレストン氏は、「政治家ならば、本当に黒人を助ける政策変更を推し進めるべきではないか」と指摘する。このように、どれだけ人種差別主義者の銅像や肖像画を見えなくしても、どれだけフロイド氏の追悼を行っても、政治と司法が本気で動かない限り、白人の優位と黒人の隷属的な地位は変わらない。
また、カリフォルニア州サンフランシスコでは6月18日、名所であるコイトタワーからコロンブス像が撤去され、6月19日には同州ロサンゼルスで、18世紀に現在の米国西部の先住民に疫病をもたらして多数の死者を出さしめ、生き残った者を教会建設の強制労働に駆り立て、改宗を強いたカトリックのスペイン人司祭であるフニペロ・セラの銅像が引き倒された。たが、先住民の土地に侵略者の子孫が未だ居座っているという構造は今も、一片たりとも変わっていないことに留意する必要がある。
(中編に続く)
トップ写真:ロバート・E・リー将軍の騎馬 出典:Wikimedia Commons; Cville dog
この記事に関連するニュース
-
トランプを勝たせたアメリカは馬鹿でも人種差別主義でもない
ニューズウィーク日本版 / 2024年11月27日 18時41分
-
「人種の壁」を超えたヒーローたち...大谷とジャッジが示した「多様性の理想」
ニューズウィーク日本版 / 2024年11月14日 19時0分
-
アングル:身構える米国防総省、トランプ氏が「大規模粛清」か
ロイター / 2024年11月11日 14時9分
-
米国民らに奴隷制度想起の偏向テキスト、政府と州当局が調査
ロイター / 2024年11月11日 12時32分
-
『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』と『ウォッチメン』が似過ぎていて怖い話
ニューズウィーク日本版 / 2024年11月6日 11時0分
ランキング
-
1「僕は無実です。独房で5年半くじけずに闘い続けて良かった」2歳女児への傷害致死罪に問われた父親に『逆転無罪判決』
MBSニュース / 2024年11月28日 18時25分
-
2原発の汚染水処理めぐり12億円を詐取か…64歳の会社役員の男を逮捕 架空の発注があったかのように装った疑い
MBSニュース / 2024年11月28日 19時40分
-
3財源明確化、国民民主に求める=年収の壁で「論点」提示―自公両党
時事通信 / 2024年11月28日 16時5分
-
4194キロ衝突死、懲役8年判決…当時少年の男に危険運転致死を適用
読売新聞 / 2024年11月28日 15時40分
-
5「日本人は大好きだけど、もう限界です…」『ハッピーケバブ』在日クルド人の社長が悲鳴、親日感情をへし折る"ヘイト行為"の実態「理由もないのにパトカーを呼ばれて…」「脅迫めいた電話が100回以上」
NEWSポストセブン / 2024年11月28日 18時15分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください