差別の象徴消しても暴力はなくせない(後編)変わらぬ暴虐の現実
Japan In-depth / 2020年6月24日 18時0分
建国以前から白人の黒人に対する暴力と迫害には一貫性があり、米国史のどの断面を切り取っても、脈々と受け継がれている。今日においては、以前は民間人が行っていた黒い身体に対するリンチや暴行を、警察や矯正施設など公権力が合憲的に引き継いで行っているわけだ。事実、米連邦最高裁判所は憲法レベルで、丸腰黒人を殺害した白人警官の無罪と免責を宣する判例を設けることで、黒人に対する暴力と迫害を事実上、奨励している。
平等と自由を保障するはずの米憲法がなぜ、と驚き怪しむにはあたらない。建国時の米憲法では奴隷制が合憲であり、第1条第2節第3項(通称5分の3条項)において黒人奴隷を、1人の人間以下である5分の3人と数えるとされた。この規定は廃止されたものの、運用上においては「黒人は人間として扱わない」建国の精神が生きているからだ。そこには、制度の設計者と現在の運用者の強固な政治的意志が込められている。
白人の加害の歴史に基づく黒人(そして先住民、ヒスパニック、アジア人)に対する恐れと、「悪いのはわれわれではなく、奴らだ」という心理的な倒錯の投影による暴力や迫害は、米国の国是であり、また護持されるべき国体である。それをなくせば白人による米国支配という、最重要の仕組みが崩壊してしまうからだ。だからこそ、名目上は暴力や迫害や差別を禁止する一方で、運用上でそれを合憲的に維持するのだ。
このように明文で憲法や法に規定せずとも、国の制度設計や運用に無色透明な形で黒人に対する暴力と迫害が埋め込まれているため、人種差別主義者の銅像や肖像画を撤去したり、隷属的な黒人のイメージを商品から撤去しても、黒人の抑圧体験は変わらない。そのようなパフォーマンスに、ほとんど意味がない所以である。
人種差別の象徴を消して、差別の否定や平等の追求することは、こうした「白人性」の真実を見えなくすることにつながり、結局は白人優位を強化する皮肉な状況を生み出す。だから、彼らの敵意や暴力はなくならず、黒人の命はいつまで経っても大事にされない。
立法や司法に救済の期待をかけても、「恐れを感じれば、相手を殺害してもよい」というドクトリンを盾にされ、裏切られるだけだ。
黒人が人間として扱われるには、白人の歴史的な狂気の理由である「恐れ」にこそ、検証が入らなければならないのである。
トップ写真:Black Lives Matter 出典:Flickr; Tom Hilton
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