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南米ボリビアでも米中覇権争い激化へ

Japan In-depth / 2020年7月2日 23時0分

南米ボリビアでも米中覇権争い激化へ


山崎真二(時事通信社元外信部長)


【まとめ】


・ボリビア、不正選挙の疑いで大統領辞任、混乱の余波が続く。


・中、ボリビアとの関係を強化。米、暫定政権を支持。


・暫定大統領と前大統領派の政党との対立が先鋭化。


 


政情不安が続く南米ボリビアをめぐり影響力拡大を目指す米国と中国の覇権争いが活発化する気配だ。


 


■ 昨秋の大統領選混乱の余波続く


ボリビアは人口約1100万人で、そのうち先住民が半分近くを占める。先住民は極めて貧しく、かつて同国は南米の最貧国とも呼ばれていた。だが2006年、先住民として初めてエボ・モラレス氏が大統領に就任、社会構造の抜本的改革に乗り出す。外国企業が保有していた天然ガス権益の国有化によって得た財源を貧に分配するなどした結果、極貧困層の割合は38%から15%へと大幅に減少、一人当たりの国内総生産(GDP)も約3倍に増大した。だが、2019年までのモラレス長期政権下で専横的政治手法が目立つようになる。昨年10月の大統領選では、いったんはモラレス氏再選と発表されたものの、米州機構(OAS)監視団の調査から「不正選挙」の疑いが浮上。国内で大規模な抗議行動が展開される中、モラレス氏は大統領辞任を表明、海外亡命に追い込まれた。その後、暫定政権が発足するも、昨年の大統領選混乱の余波が続いている。



▲写真 モラレス前大統領 出典:Wikipedia Commons; EneasMx


 


■ 前政権下で中国の影響力増大


こうしたボリビア国情の変化が、同国を舞台とする米中の“覇権争い”に反映される。モラレス前政権は反米左翼路線を進め、駐ボリビア米国大使を国外追放、米国との関係が悪化。中国はそこに乗じる形でボリビアとの関係を強化。モラレス前政権との間で経済技術協力協定を結び、積極的に経済支援を行い、ボリビアのインフラ開発・整備には大量の資金を提供した。2018年には両国の戦略的パートナーシップ確立と「一帯一路」へのボリビアの協力をうたった共同声明が発表された。中国の支援の背景にはボリビアの豊富な鉱物資源獲得という狙いがあったというのが、多くの中南米専門家の一致した見方だ。特にリチウムはボリビアが世界有数の埋蔵量を保有しており、中国にとって同国支援の大きな要因になったことは想像に難くない。


 


■ トランプ政権は“反転攻勢”へ


一方、米国は「裏庭」ともいえる南米の一角に中国の影響力が増大することに神経をとがらせる。トランプ政権は昨秋のボリビア政変を“反転攻勢”への好機と捉えたようだ。トランプ大統領は、モラレス氏失脚後にボリビアで発足した保守系右派のアニェス暫定政権を「平和的かつ民主的な政権移行を目指している」とし、支持する方針を表明した。ボリビアの外交政策は暫定政権の発足後に急転回。対米関係が大幅改善に向かう一方、キューバとの外交関係停止、在イランおよびニカラグアのボリビア大使館の閉鎖が相次いで発表された。在ボリビア外交筋は「トランプ政権がボリビア暫定政権に対し支援の約束と引き換えに、対キューバ関係断絶などを求めた可能性が十分」と語る。現在、アルゼンチンに亡命中のモラレス前大統領は昨年の母国の政変に関し、「米国の政治・経済的圧力によって引き起こされたクーデター」とし、トランプ政権の陰謀説を主張している。ニューヨーク・タイムズ紙は先ごろ、モラレス前大統領失脚の引き金となった米州機構(OAS)監視団の「選挙不正」発表では、欠陥データが使われたとの専門家の見解を紹介した。この報道を受け中南米の専門家の間では「OASが米国主導の国際機関であることを考えれば、昨年のボリビア大統領選でモラレス氏が不正を行ったというOASの見解は信頼性に疑いがあり、同氏失脚の背後で米国が動いた可能性は否定できない」(ペルー・カトリカ大政治学者)との声も聞かれる。


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