中国共産党幹部著書「平安経」批判の訳
Japan In-depth / 2020年8月5日 22時57分
同書は、「平和で包括的なコミュニティプラットフォームを構築し、人民は厳粛な気持ちの中に平和な雰囲気を醸成し、平和なエネルギーを集めることができる」ことを謳い文句にしており、「宇宙時空平安」「世界各界平安」「中華公衆場所平安」など10章からなる。
ところが、末尾にひたすら「平安」をくっつけただけの名詞が延々と続くイミフの本でもある。「1歳平安、2歳平安、3歳平安……99歳平安」「眼平安、耳平安、鼻平安、唾液腺平安、視覚平安、聴覚平安、咽喉平安……」「北京首都国際空港平安、北京大興国際空港平安、上海浦東国際空港平安、台湾桃園国際空港平安、上海虹橋駅平安、香港西九龍駅平安、天津港平安、深圳港平安……」など、大変ありがたい感じはするが、同時に読者の知性をバカにしているのかと思われる内容である。
幹部の私腹肥やしと政治方針の不貫徹
表向き、今回の『平安経』批判や賀氏の追放は、賀氏が定価299元(約4450円)もする自著のゴリ押しで私腹を肥やしていた腐敗・職務不忠実や、『平安経』の現実逃避性を党中央がやり玉に挙げた現象のように映る。
事実、このように著作のゴリ押しで金儲けにうつつを抜かし、問題となったのは賀氏が初めてではない。著者にとっても出版社にとっても美味しい「中国独自の新たな出版ビジネスモデル」で有名となった党幹部に、元党湖南省郴州市委員会書紀の李大倫氏がいる。李元書記は在任中、書道作品集『大倫書法作品集』とエッセイ『歳月如詩』を上梓し、3000万元(約4億6000万円)以上を稼いだという。地方幹部による著作刊行はある種のブームだと、田中氏の記事は指摘する。
一方、『平安経』の内容は、米中関係の悪化、尖閣・台湾における緊張の高まり、コロナ禍による経済減速、大量失業など社会問題の顕在化など、中国内の問題が山積して党中央が国全体の引き締めを図る中、あまりにも現実逃避的で非生産的であると見られた可能性もある。
田中氏が指摘するように、中国との政治的対立が深刻化している米国、カナダ、オーストラリアにも「美国平安、加拿大平安、澳洲平安」と祝福を忘れないのは立派であるが、党がこれらの国を「香港や台湾など中国の内政問題に干渉している」「中国に対するフェイクニュースを煽っている」などと口汚く罵る雰囲気の中で、中央の政治指導の方針から外れたと見られたのかも知れない。
さらに、省委書紀や省長ですらない地方の一幹部の著作が、国家指導者の著作を差し置いてキャンペーンの対象とされたことが、規律違反と見なされた可能性も否定できない。
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