イラクのクウェート侵攻30年と日本の屈辱
Japan In-depth / 2020年8月8日 23時0分
古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)
「古森義久の内外透視」
【まとめ】
・1990年8月、イラクの大軍が隣国のクウェートに侵攻。
・米、日本の多国籍軍参加を切望するも、日本は人的寄与せず。
・日本は130億ドルの資金を提供、「小切手外交」と揶揄された。
ちょうど30年前の1990年8月2日、イラクの大軍が隣国のクウェートに侵攻した。その侵攻が超大国アメリカを巻き込んでの第一次湾岸戦争へと続いた。だからクウェート侵攻が湾岸戦争の始まりだったともいえる。
この戦争をアメリカの首都ワシントンで、そしてクウェート近くの前線で、取材した私にとっても、いま思い出せば強烈な体験だった。単なる戦争というだけでなく、世界情勢全体が地殻変動を起こしていた当時の国際秩序の激変とつながる大異変でもあったのだ。
イラクのクウェート侵攻は崩壊しつつあるソ連への対処に追われていた当時のアメリカの不意を衝く大事件だった。当時の初代ブッシュ政権は戦後史でも稀な多国間の団結でイラク軍を粉砕し、東西冷戦後の世界の新秩序を固めることに成功した。その過程では日本だけが国家としての欠陥をさらし、国際的な屈辱を体験した。
イラク軍の大部隊がクウェートになだれこんだ第一報がホワイトハウスに届いた時、ワシントンは夏休みだった。1990年8月2日、ワシントン時間では午後9時すぎだった。
ブッシュ大統領、チェイニー国防長官はともに翌日のコロラド州での式典に出る予定を決めていた。この種の緊急事態にまず対処するホワイトハウスの国家安全保障会議のスコウクロフト大統領補佐官も、ワシントンの自宅でくつろいでいた。
激動の中心となるイラクに駐在していたアメリカ大使は休みをとって、ロンドンで静養中だった。これほどアメリカ政府はこの侵攻事件を予期していなかったのである。
だが衝撃を受けたブッシュ政権も対応は敏速だった。
アメリカ政府はイラクのフセイン大統領の行動を国際規範違反の侵略行動と断じ、撤退を迫る一方、応じない場合の軍事制裁の準備を国内、国際の両面で始めたのだ。
だが当時の国際情勢はきわめて複雑で重大な転機を迎えていた。
前年の1989年11月にはドイツのベルリンの壁が崩れ始めていた。ソ連が支配してきた東ドイツを含め東欧諸国の共産主義政権があいつで崩壊の兆しをみせ、国民たちが自由を求めて西側へと脱出し始めていた。
肝心のソ連の共産党体制が揺らいでいた。その1989年12月には地中海のマルタでの米ソ首脳会談でゴルバチョフ書記長は「東西冷戦の終わり」という言葉を口にした。アメリカとの対決の終結を示唆していた。だがアメリカのブッシュ大統領はまだそんな言葉は述べなかった。ソ連の共産党政権は揺らいだとはいえ、なお健在だったからだ。
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