晴れることなきロス疑惑(上) 再論・「正義」の危険性について その2
Japan In-depth / 2020年10月31日 23時14分
林信吾(作家・ジャーナリスト)
「林信吾の西方見聞録」
【まとめ】
・「ロス疑惑」三浦和義氏は13年間を拘置所で過ごした。
・「疑わしきは罰せず」という、刑事裁判の大原則を無視した裁判。
・罪のない人に刑罰を科せれば、誰も法の正義など信じなくなる。
「ロス疑惑」を覚えておいでだろうか。
2008年10月、この「疑惑」の渦中の人物であった三浦和義氏が自殺した。
少林寺拳法の道場で空き時間にその話題を出したところ、当時高校生だった後輩に、
「ミウラカズヨシって、サッカー(選手)しか知らない」
と言われたことを今でも覚えている。もちろんキング・カズこと三浦知良選手のことだが、当時すでにスターで、今も現役とは大したものだ……という話では、もちろんない。
騒ぎの発端は、1981年にさかのぼる。
くだんの三浦氏が米国ロサンゼルスに出張中(海外雑貨を扱う会社を経営していた)、まずは8月31日、宿泊先だったホテルの部屋に妻が一人でいた際、突然「東洋系の女」が上がりこんできて、ハンマーで殴りかかった。この時は、妻は軽症で済んでいる。
さらには11月18日、今度は市内の駐車場で、何者かによって妻が頭部を、自身も脚を銃撃された。意識不明となった妻は、米軍の協力を得て日本に移送されたものの、搬送先の病院で死亡。当時のマスコミの扱いは「悲劇の夫」というものであった。
ところが1984年に『週刊文春』に「疑惑の銃弾」と題した連載記事が掲載される。
三浦氏が妻の死にともなって巨額の保険金を受け取ったことや、現場で目撃された白い車に全く気づかなかった、という本人の供述が信じがたいとして、要は「保険金殺人の疑いあり」という趣旨の記事である。
三浦氏は有名な元女優・映画プロデューサーの甥で、子役の経験もあったとは言え、この時点では公人でも芸能人でもない、一般市民だった。その一市民のプライバシーを事細かに書き立てる記事に対しては、当時すでに一部からの批判もあった。
控えめに言っても、一連の「疑惑」報道によって、こいつは悪い奴、といったイメージが広まったことは否定できない。
実は私の旧知のジャーナリストが、当時『週刊文春』のスタッフライターとして、この取材に参加していた。
「取材した感触ってやつを聞かせてくれない?」
と尋ねたところ、彼は言下に「クロだと思うよ」と答えたものだ。
私も、まあ故人に対して今さら言いにくいことではあるが、正直な人ではないな、という印象は抱いていた。
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