晴れることなきロス疑惑(下)再論・「正義」の危険性について その3
Japan In-depth / 2020年11月1日 11時0分
林信吾(作家・ジャーナリスト)
「林信吾の西方見聞録」
【まとめ】
・ジミー佐古田氏、執念で「日米合同捜査本部」立上げ。
・殺人罪は「一事不再理」、殺人共謀罪は日本では「共謀罪」存在せず、灰色の決着。
・ロス市警の本命は「ジェイン・ドゥJane Doe88事件」。
前回の冒頭で述べたように、2008年10月、三浦氏は自殺を遂げる。享年61。
この年の2月、旅行先の米自治領サイパン島で、出張してきたロス市警の捜査員に逮捕され、身柄を移送された直後、市警の留置場にて、シャツで首を吊ったもの。
2003年に、日本における裁判では、最高裁で無罪が確定したところまで前回述べたが、ロス市警は、まだ彼を逮捕・訴追することを諦めていなかった。
三浦氏の方は、米国でも時効になっているに違いないと、単純に考えている節がある。そうでなければ、つまり再逮捕される可能性があると考えていたら、米国領に足を踏み入れることなどなかっただろう。
しかし、米国の法律では。殺人罪に関しては時効が設定されておらず、そもそもロス市警の立場からすれば、この件は捜査中に容疑者が海外(米国外)に逃亡したも同然なので、時効という意識自体、最初からなかったのだ。
その中心にいたのがジミー佐古田・元市警殺人課特捜隊長である。
名前で分かる通り日系3世であり、日本語も堪能なこの元刑事は、三浦氏のブログを監視して、彼がサイパン島に時折出かけていることを知り、最終的に、次に同地を訪れる予定の日時を知り得たという。
佐古田氏はこの時点では、ロス市警の職は退いていたのだが、当局から乞われて現場復帰していた。
もともと、事件発生の時点では、ロス市警はさほど捜査に熱心ではなかったようだ。ひどい話だが、かの地にあって銃撃・強盗事件など日常茶飯事であり、しかもこの件では被害者が合衆国の市民ではなく日本人観光客だったから、などと言われている。
▲写真 ロス市警(イメージ) 出典:Flickr; Chris Yarzab
しかし、当初から三浦氏の供述内容に疑念を抱いていた佐古田氏は、前回述べた1984年以降の日本における報道加熱ぶりを知るや、上司の頭越しにロスの検事局に直訴した。この年、同地ではオリンピック・パラリンピックの開催年であったため、
「このままでは、治安の悪い危険なん街だというイメージが世界中に広まってしまう」
と訴えたのだが、これまた当初は、市警上層部の怒りを買っただけであった。
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