安全神話が国難招いた(上)日本メルトダウンの予感 その1
Japan In-depth / 2021年3月16日 10時24分
林信吾(作家・ジャーナリスト)
「林信吾の西方見聞録」
【まとめ】
・安全神話は意図的に流布されたものでなく、技術への過信による誤解
・反対派との論争の切り札として推進派が安全神話を利用する傾向
・スリーマイル事故が日本で起きないと考える根拠は何かあったのか。
この原稿は2021年3月11日に書いている。そう、東日本大震災から10年。
朝のニュースで、今も避難生活を続けている人が全国で4万1241人もいることを知った。被災した42市町村の人口は、10年前に比べて4%以上減っているそうだ。
2万1959人にのぼる死者・行方不明者の大部分は津波の犠牲者だが、長きにわたって多くの人が避難生活を強いられている最大の原因は、福島第一原発の事故であることは言うまでもない。
つい先日、DVDで『Fukushima50』という映画を見た。
事実に基づく物語、というキャッチフレーズが最初に流されるが、私は最後、吉田所長の葬儀の場面で読み上げられた弔辞の一節、
「2号機が爆発しなかった理由は分からない」
というくだりで、あらためて慄然とさせられた。
事故からほどない3月下旬の段階でも、強い西風が吹いていたおかげで、放射能の大部分は太平洋上に拡散したため、避難区域が首都圏まで拡大されずに済んだ、と報じられていた。同時にその時点でさえ、琵琶湖の面積よりはるかに広い地域で、人が住めなくなってしまっていたのだが。
今回あらためて検証すべきは、原子力発電(以下、原発)を推進する原動力となってきた「安全神話」についてである、と私は考える。
列島のいたるところに活断層があり、世界に冠たる地震大国とまで言われる我が国において、事故が起きた時点では全部で54基もの原子炉が稼働し、全発電量のおよそ30%をまかなっていたとは、一体どういうことであったのか。
大きく分けて、ふたつの理由によるものとされている。
ひとつは、石油の供給がいつ途絶えてもおかしくない、と考えられたこと。
多くを語るまでもなく、第二次世界大戦後の中近東は、油田地帯であると同時に、世界の火薬庫とまで言われる、繰り返し紛争の舞台となる地域でもあった。だからこそ、石油に頼ることなく同等以上の発電量が得られる原発へと、政策的にシフトしてきたのである。なおかつ発電コストが安く、二酸化炭素(CO2)の排出量も少ない。電力会社は一貫して、原発は「安価でクリーン」であると宣伝してきた。
とは言え、日本は世界で唯一、核兵器による被害を受けた国であり、核とか原子力といった言葉を聞いただけで抵抗を感じる、という国民が多かったことも、また事実である。
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