安全神話が国難招いた(下)日本メルトダウンの予感 その2
Japan In-depth / 2021年3月23日 19時0分
林信吾(作家・ジャーナリスト)
「林信吾の西方見聞録」
【まとめ】
・原発再稼働訴える人たちは過去から何を学んだのか。
・安全コストを考えれば、原発が安価な電力源だとは言えない。
・「日本の技術」への過信が安全神話を補完した。
福島第一原発事故について、事故の直接の原因は津波であったが、本当に「想定外で防ぎ得なかった」と総括してよいのか。防潮堤ひとつとっても、高さが不十分ではないか、との指摘があったにも関わらず、東京電力は安全対策の強化に乗り出さず、2011年3月11日を迎えてしまった事を、前回紹介させていただいた。
ひとつ補足させていただくと、民間事故調査員会の報告書でも、
「なまじ防災設備の強化工事など行うと、かえって地元住民の不安をあおり、原発反対派を勢いづかせることにもなりかねない」などという、倒錯した論理が働いていたことが示唆されている。
1985年の阪神淡路大震災の直後、当時の科学技術庁長官だった田中真紀子女史が、
「原子力発電所は本当に大丈夫ですか?」
と述べて調査を提案したのだが、これが報道されるや、
「原発反対派が、大臣の発言を誇張してマスコミに流したに過ぎない」
「いや、役人と電力会社が棒組になって懸案を握りつぶしたのだ」
といった不毛な論争が起きてしまい、最終的には当時の村山改造内閣(世にいう自社さ連立)も科学技術庁の事務方の「絶対安全」という主張を支持するに至ったのである。
話を戻して、震災・事故当時は民主党・菅政権(今さらだが、スガでなくカンの方)で、私は今さら当時の政権を擁護する考えはない。そもそも、冒頭で述べた懸念にもかかわらず、稼働を続けていたのは、当の民主党政権なのだ。しかし、再三紹介させていただいている『Fukushima50』という映画での、佐野史郎演じる首相の描かれ方は、いささかひどい。
本社の社長と会長が出張中で、現場に指示が出せないと聞いてブチキレるのにはじまり(それはキレるだろう)、要請されてもいないのに現地に乗り込んだとか、余計なことばかりしやがって、と言わんばかりなのだ。東京電力が独自に取りまとめた調査報告書を参考にして脚本が書かれたのかも知れない。その報告書の中でさえ、会社の首脳陣は事故現場を見捨てて作業員を退避させることばかり考えていたことが明らかにされているのに。
やはりこの事故に関して、最大の責めを負うべきは当事者能力を書いた東京電力であると考えざるを得ないのではないか。
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