イラン核施設でサイバーテロ?
Japan In-depth / 2021年4月14日 0時2分
宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
「宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2021#15」
2021年4月12-18日
【まとめ】
・イラン原子力庁長官、11日核施設での異常事態を「テロ」と断定。
・同国は2009~2010年にも核施設サイバー攻撃で多大な被害を受けた。
・今回の攻撃はウィーンでのイラン核合意関連交渉を潰すことが目的か。
この原稿を執筆中に大ニュースが二つも飛び込んできた。一つは、米ジョージア州オーガスタ・ナショナルで行われたゴルフのマスターズで松山英樹選手が通算10アンダーでメジャー初制覇を果たしたこと。
もう一つは、イラン原子力庁長官が、ナタンズの核施設で11日に起きた「異常事態」を「テロ」と断定したことである。
まずはイランの核施設から。イスラエル政府は沈黙しているが、同国の公共放送は複数の情報機関筋を引用し、モサドがサイバー攻撃を仕掛けたと報じたそうだ。一方、イラン国営メディアによれば、原子力庁広報担当者はナタンズ施設で「電気配線に問題が発生」と説明したという。電気配線に問題?それってサイバーテロだろう?
サイバー戦に詳しい向きなら、2009-10年に何者かがスタックスネット(Stuxnet)と呼ばれるコンピューター・ウイルスをイランの核施設内に侵入させ、ウラン遠心分離機を数百台破壊した事件を覚えているだろう。仕掛けたのはアメリカかイスラエルだと言われるが、実態は今も不明だ。いずれにせよ、攻撃を公式に認める国はないだろう。
このサイバー攻撃は、元々ドイツのシーメンス社が自社の汎用機械制御装置をサイバー攻撃から守るため、米国の研究所と共にウイルス防御の研究を始めたことがきっかけだといわれる。イランがウラン濃縮用遠心分離機等を制御するためシーメンス社製工作機械を使用していることが分かり、件の攻撃が計画されたようだ。
「こうした技術が防御に使えるならば、攻撃にも使えるのではないか」と誰かが考えたのだろう。シーメンス製工作機械のコンピューターシステムの弱点を見つけ、それを逆手に取るウィルスとしてStuxnetを最適と考えたらしい。誰かは知らないが、同ウイルスをナタンズに送り込み、何千機もある遠心分離器の10%を破壊したそうだ。
手口は実に巧妙で、遠心分離機用モーターの回転速度を狂わせたのだという。ある時はゆっくり、ある時は速く回転させ、それを何度も繰り返すとモーターが壊れてしまうらしい。あまりに巧妙で、当時イランはサイバー攻撃に全く気付かなかったそうだ。何ともお粗末な話だが、「二度あることは三度ある」のが中東である。
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