米警察の射殺標的、低年齢化
Japan In-depth / 2021年4月22日 9時23分
岩田太郎(在米ジャーナリスト)
【まとめ】
・米国で18歳未満の未成年者が警察に射殺されたとの報道が増加。
・背景に司法、社会風潮、犯罪厳罰化による警察の増長あり。
・次世代の若い人たちの幸福に関心を失った社会に未来はない。
近年、米国において18歳未満の未成年者が警察に射殺されたとの報道が増加している。背景には、司法による警察への生殺与奪権の付与と完全免罪、子供を子供として尊重しなくなった米国の社会風潮、さらに政治家や政党による犯罪厳罰化の立法が警察の増長を引き起こしたことに対する検証や反省が欠如していることが挙げられる。
■13歳の少年も無慈悲に殺害
中西部イリノイ州シカゴで3月29日深夜2時半、ヒスパニック系少年のアダム・トレード君(享年13)が警官に射殺された。発砲の通報を受けて容疑者のトレード君らを追跡した警官は、「警察だ!止まれ!今すぐ止まれ!両手!両手!両手を上げろ!」と叫び、「(武器を)捨てろ」と怒鳴った後、命令通りに両手を上げ、その際には武器を所持していなかったトレード君の胸を無慈悲に撃ち抜いたのである。
同市のロリ・ライトフット市長は、「率直に言って、私たちはアダムの力になれなかった」と述べ、「これ以上、市内で若者を1人たりともこのように失うことがあってはならない」と言明した。トレード君のような低年齢の少年が深夜に街をうろつき、銃さえ持っていたことは異常である。親がきちんと養育をしていないのは明らかであるし、地域社会の見守りや包摂力が崩壊しており、さらに行政側の非行少年補導システムがうまく機能していないことも確かだ。
だが、なぜここまで事態がエスカレートするのか。そこには、警察官が「犯罪を解決することで社会をよくする」という本来の職務の執行を目的とするのではなく、「従わない者は、法の手続きや更生のチャンスなど与えず、虫けらのように殺してもよい」という肥大した生殺与奪の権力を司法から与えられており、その権力が腐敗している結果であると言える。
さらに、警察官が裁判抜きのインスタント処刑人のように振る舞う背景には、「射殺という手段を用いても、案件を終わらせなければならない」という、必然的にエスカレーションを引き起こすパフォーマンス主義がある。警官は武装して逮捕権を持つのだから、後ろめたさのある人たちの一部は逃げ出し、抵抗する。だが、たとえば家庭内暴力の通報で呼ばれた警察が、子供の目前で、抵抗した父親を射殺する案件が頻発するのは異常だ。社会を改善する能力に欠ける警察はもはや「解決」ではなく、「ザ・問題」になっている。
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