菅首相「46%」目標とバイデン気候サミット(上)
Japan In-depth / 2021年4月24日 19時0分
有馬純(東京大学公共政策大学院教授)
【まとめ】
・「13年比46%減」は過去の失敗の再来。あるいはそれ以上に地合いは悪い。
・数字の横並びにこだわれば、経済的負担が不均衡に大きくなること自明。
・電力料金上昇は不可避。製造業、経済への影響に誰がどう責任をとるのか。
4月22日、菅首相は地球温暖化対策本部において「2030年に温室効果ガスを2013年比▲46%とすることを目指し、更に▲50%の高みにむけて挑戦を続ける」との方針を打ち出し[1]、同日の米国主催の気候サミットにおいて、同目標を国際公約した。
菅首相の新目標設定および気候サミットの結果を見るにつけ、元交渉官としては「ああ、失敗の歴史を繰り返している」と暗澹たる気持ちになった。
■ 京都議定書と鳩山目標の失敗の歴史
今回の菅首相の▲46%表明は、かつて日本が気候変動交渉で犯した2つの失敗を繰り返すものであり、まさにデジャヴュ感がある。
第1の失敗は1997年の京都議定書交渉時のことである。当時、日本はこれまでの省エネの進展を考えれば第1約束期間の目標値は90年比▲0.5%程度がぎりぎりだとの方針で交渉を行っていた。
しかし「京都会議を成功させるためには日本の目標引き上げが不可欠である」として日本に目標引き上げを強く迫ったのは米国代表団を率いていたゴア副大統領であった。その結果、日本は詳細ルールも決まっていない森林吸収源、京都メカニズムを目いっぱい盛り込んで▲6%目標を積み上げ、それが日本の法的拘束力ある目標になった。
写真:第3回気候変動枠組条約締約国会議(地球温暖化防止京都会議、COP3)でより厳しい削減目標を求める人々によるデモンストレーション(1997年12月7日 京都市) 出典:THIERRY ORBAN/Sygma via Getty Images
東西ドイツ統合効果と英国のガス転換により、寝転がっても90年比▲8%目標達成が可能なEUやそもそも削減目標のない途上国は、森林吸収源や京都メカニズムの算定について制限的なルールを主張し、目標達成のためにこれらが不可欠な日本は散々苦しめられた。
日本に目標引き上げを迫った米国は、ブッシュ政権が誕生するとさっさと京都議定書から離脱してしまった。後に残された日本は国内削減だけではとても6%削減目標を達成できず、官民ともに大量の京都クレジットを購入することになり、海外に流れた国富は1兆円を超えることとなった。
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