あらためて死刑廃止論ずべき(上)「墓石安全論」を排す その4
Japan In-depth / 2021年4月28日 19時0分
林信吾(作家・ジャーナリスト)
「林信吾の西方見聞録」
【まとめ】
・凶悪犯罪への厳罰化と死刑廃止は同時進行で論ずるべき。
・毒物犯罪に関する日本警察の捜査能力に対して懐疑的な見方もある。
・「和歌山毒物カレー事件」の警察・検察・裁判所の論理に疑問が残る。
18歳以上の「特定少年」だけではなく、性暴力をともなうなど悪質なイジメを行った場合は、小中学生と言えど法的なペナルティを科すべきであると、ここまで述べてきた。
ただ、誤解されては困るのだが、私は決して単純な厳罰主義者ではない。あくまでも現行の法体系では、凶悪犯罪の低年齢化やイジメの悪質化に対処できていないので、これ以上の犠牲者が出る前に手を打つべきだ、と主張しているのだ。
同時に私は、厳罰化と死刑廃止は同時進行で論ずるべきだ、とも考えている。前々から死刑廃止論者ではあったのだが、凶悪犯罪の増加に歯止めがかからない現状から、どの世論調査でも死刑存続を望む声が多数派を占めている。法律と世論は尊重しなければならないので、これは前にも述べたことだが、これまで個別具体的な事件について死刑回避を主張することは控えてきた。
しかしながら、調べれば調べるほど、断じてこの被告を死刑にしてはならない、と言わざるを得ない事案があるので、あらためて私が死刑制度に反対する理由を開陳させていただこう。
その事案とは「和歌山毒物カレー事件」である。1998年7月25日、和歌山市内で開かれていた自治会(町内会)主催の夏祭り会場で、振る舞われたカレーに毒物が混入し、それを食した4人が死亡、他に63人が腹痛や嘔吐などの症状を訴え、多くは病人に搬送された。
当初、警察や市保健所は集団食中毒を疑ったが、自治会長の遺体を司法解剖したところ、心臓の血液から青酸化合物が検出され、また容器に残っていたカレーからも同様の青酸反応が出たとして、警察は一転、青酸化合物を用いた無差別殺人事件の可能性が高いと判断。捜査本部が設置され、マスコミも『青酸カレー事件』と報じた。
ところが、この自治会長を除く3人の遺体からも、現場に散乱していた吐瀉物や食べ残しのカレーからも、青酸化合物は検出されなかった。いずれも、検出されたのはヒ素だったのである。
これを受けて、捜査本部も「ヒ素が検出された」旨の発表をあらためて行い、さらに警察庁科学警察研究所が再鑑定した結果、4人の死因を「青酸中毒」から「ヒ素中毒」に変更した。かくして捜査の焦点は、「ヒ素を容易に入手でき、かつ調理中のカレーに混入することができる人物」こそが犯人に違いない、という方向に絞られて行き、最終的に浮かび上がったのは、町内で暮らす夫婦であった。
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