コーツ発言は「令和のハルノート」「コロナ敗戦」もはや不可避か その4
Japan In-depth / 2021年5月26日 7時15分
今次の東京五輪も、昨年春に延期が決定して以降、中止を求める声がずっとあったわけだが、前大会組織委員長だった森喜朗氏は、
「ここで中止したら、今までの投資が無駄になる」
と一蹴した。人の命とカネを同列に論じることは無論できないが、為政者の論理としてはまったく同じ構造だということは言える。
▲写真 森喜朗・前東京五輪組織委員会会長(2021年02月12日) 出典:Yoshikazu Tsuno - Pool /Getty Images
いずれにせよ昭和の日本は、15年ほどかけて(!)段階的に撤兵する、といった妥協案で米国からの石油禁輸解除、もしくは緩和を引き出そうともくろんだが、取り合ってはもらえなかった。ハルノートの内容をかいつまんで述べると、中国大陸及び当時日本がすでに進出していた仏領インドシナ(現在のヴェトナム)から、全ての軍事力と警察力を即時引き払うこと、日独伊三国同盟の実質的的破棄、さらには蒋介石総統が率いる中華民国政府を唯一の合法政権と認めること等々であった。
これだけでも、日本に対して軍事的・外交的な主権を放棄せよと決めつけているに等しく、なかなか大変な話だが、その条件を呑めば経済制裁を解除する、というのではない。まずは日本に条件を呑ませ、それから交渉に応じてもよい、というのだ。
これは『<戦争>に強くなる本』(ちくま文庫・電子版アドレナライズ)でも書かせていただいたが、外交文書としてはもはや「ぶっ飛ばしもの」であって、ここまでやられたらどこの政府でもキレる。実際、日本の戦争犯罪を裁いた東京裁判(極東軍事裁判)でも、A旧戦犯とされた被告に対して、無罪を求める意見書を書いたことで知られるインドのパル判事は、
「ハルノートのごときものを突き付けられたら、ルクセンブルクのような小国でも武器を取って立ち上がったであろう」
と述べている。余談ながら、日本ではしばしば「パル判決」と呼ばれるが、判決は裁判官の多数決で決定されるので、あくまでも意見書である。
いずれにせよ、ここまで読まれた方々には、私が先日の「コーツ発言」について、ハルノートを彷彿させると述べた理由がお分かりいただけるだろう。
とにかく、無観客でもよいから五輪は必ず開催するという結論ありきで、新型コロナ禍の中で五輪を開催することに対する日本国民の不安や、IOCになにも言い返せない政府・組織委員会への不信感など、どうでもよい、と言い放ったに等しいのだ。
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