五輪損切り、消費税凍結を選択肢に(下)「コロナ敗戦」不可避か 最終回
Japan In-depth / 2021年5月31日 19時0分
逆に言えば、中止した場合にはIOCが被る逸失利益も莫大なものとなるので、当然、日本側に損害賠償を求めてくるだろう、というわけだ。
ただ、開催都市契約2020(東京都のホームページからダウンロードできる)を読んでみた限りでは、東京の事情で中止になった場合の損害賠償について、明確な取り決めはなされていない。念のため知り合いの弁護士にも確認を求めたが、
「なにぶん前例がないことだから、そもそも本当に訴訟になるか、一体どこの裁判所に提起するのか……IOCも困るんじゃないでしょうかね」
とのことであった。こうしたイベントにはまた、各種の保険がかけてあるのが普通なので、IOCの逸失利益は本当のところいくらくらいなのか、謎も多い。
とは言え、ひとつだけはっきりしているのは、経済的な問題に限って言えば、中止はたしかに誰の利益にもならないということである。
延期で経費が膨らんだ分も含めて、すでに総額4兆円近い投資がなされているが、これは誰にも補償を求めることができないばかりか、直前の中止では混乱も大きく、さらなる追加経費が発生するだろう。
だからこそ、英米のジャーナリストが訴えたのは「損切り」であった。新型コロナ禍の収束が見えないばかりか、ワクチン接種で欧米に後れを取っている国で、選手およそ1万人。関係者を含めれば4万人を超える人数を世界中から集めるリスクをとるよりは、経済的なダメージを甘受したほうがよいのではないか、と。
▲写真 新国立競技場(2021年4月21日) 出典:Carl Court/Getty Images
もうひとつ、私はこれまで、五輪参加を目指して血のにじむような努力をしてきたアスリートたちのことを考えると、なんとか開催してほしいという考えを、包み隠さず開陳してきた。もうひとつ、昨年春に1年延期が決まった際には、おそらく多くの日本人が同じ気持ちだったと思われるが、
(1年も経てばワクチンが行き渡り、パンデミックもだいぶおさまるだろう)
と楽観的な考えでいたことを正直に記さなければならない。
事ここに至った今、日本の為政者は覚悟を持って「損切り」も選択肢としてはどうか。しつこくからむようで朝日新聞には申し訳ないが、中止する権限は日本側にはないので。
今次の開催権を返上したら、未来永劫、五輪は日本で開催できない、と考える向きもあるようだが、それこそ今そんな心配をしている場合だろうか。
1940(昭和15)年に開催される予定であった東京五輪は、中国との戦争が泥沼化しつつあったことから、世界中から後ろ指をさされつつ開催権を返上した。しかしながら敗戦から復興を果たし、24年後にはアジアで初めての開催国になり得たのだ。今次も20年くらいのスパンで見れば、充分にリベンジできる可能性はある。
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