日本改鋳3「日本の失われた30年と江副浩正氏」続:身捨つるほどの祖国はありや 7
Japan In-depth / 2021年7月7日 0時6分
牛島信(弁護士・小説家・元検事)
【まとめ】
・リクルートを興した江副浩正氏について書いた「起業の天才!」なる本を読んだ。
・江副氏は1995年当時、インターネット社会の到来を予言していた。
・『失われた30年 どうする日本』という特別プロジェクトを立ち上げ、田原総一朗氏や寺島実郎氏らと次世代のための日本を考えていく。
江副浩正という人がいた。1936年に生まれて76歳で亡くなった。
今、彼のことを、どれくらいの人々が覚えているだろうか?リクルートといえば知らない人はいないだろう。しかし、そのリクルートは江副氏が起こした企業であることは、大部分の人の記憶にあるだろうか。たとえ知ってはいても、江副氏の影は薄いのではないだろうか。
リクルート・ホールディングズは東証1部の上場の会社であり、時価総額が9兆円で日本第6位の巨大会社であるにもかかわらず、である。
『起業の天才!』(大西康之、東洋経済刊)は面白かった。或る方に「読んでない?読んでみろ、一度読みだすと止まらないから」と言われた。私が人生の師とも恩人と思っている方である。
▲写真 「起業の天才!―江副浩正 8兆円企業リクルートをつくった男」大西康之 (著) 、東洋経済新報社 出典:amazon
もちろん、さっそく読み始めた。
私は江副氏とお話しをしたことがある。あるホテルの開業パーティだった。私が話しかけると、一瞬彼がびくっと反応されたのを覚えている。無理もない。その2年ほど前に贈賄で逮捕され起訴されている身だったのだ。
もう30年前のことである。
『起業の天才!』を読みながら、私は永井荷風の『つゆのあとさき』の一節を思い出していた。
松崎老人という、以前は某省の高級役人だった男が、収賄で捕まりその時には大いに世間を騒がせた。この松崎老人は、失われたかつての地位や名誉と引換えに、出獄の後は生涯遊んで暮らせるだけの私財をつくっている、という設定である。一時の喧騒が終わった20年の後、自ら回顧して言う。
「松崎は世間に対すると共にまた自分の生涯に対しても同じように半ば慷慨し半ば冷嘲したいような沈痛な心持になる。そして人間の世は過去も将来もなく唯その日その日の苦楽が存するばかりで、毀誉も褒貶も共に深く意とするには及ばないような気がしてくる。」(七)
しかし、江副氏にとってのその後の時は松崎老人のようには過ぎなかった。
1989年にリクルートコスモス社の株の譲渡が贈賄として起訴された江副氏は、膨大な資産を使って大弁護団を組織し、「加わる弁護士は最終的に18人となり、ロッキード事件の田中弁護士団(14人)を上回った」という(409頁)。しかし、2003年、江副氏は有罪となった。懲役3年執行猶予5年という判決は「弁護士団にとっても検察にとっても控訴しにくいギリギリの線だった。」と著者は評する。(410頁)
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