なぜ今ビートルズなのか 忘れ得ぬ一節、一場面 その3
Japan In-depth / 2021年7月23日 23時0分
林信吾(作家・ジャーナリスト)
「林信吾の西方見聞録」
【まとめ】
・映画『イエスタデイ』の舞台は、「ビートルズ」が存在しない世界。
・作中の「バック・インUSSR」をめぐる皮肉にも注目。
・映画のメッセージは、ビートルズが楽曲に込めた、自らの出自とバックグラウンドに対する誇りだろう。
私はいわゆるビートルズ世代には属していない。もう少し若い。中学に入学した年に、ビートルズが解散したとの報道に接している。
ただ、英国ロンドンで暮らした経験もあり、彼らの音楽はいつも身近なところにあった。とは言え、もしもビートルズが存在しなかったら自分の人生はどうなっていたかなどと、考えたこともない。
『イエスタデイ』という映画は、まさにそうした設定の映画だ。公開は2019年。舞台はイングランド東部のサフォーク。北海に面した、こぢんまりとした港町だ。
そこで細々と音楽活動を続けている、ジャック・マリックという男がいたのだが、ある日、原因不明の大停電が起こり、暗闇の中、自転車で帰宅途中だった彼は、バスにはねられてしまう。
病院のベッドで意識を取り戻すが、そこはなぜか、ビートルズが存在しない世界であった。偶然その「事実」に気づいたジャックは、こんなことを思いつく。彼らの楽曲を自分のものとして世に出せば、一気にスターダムに……
早速地元のライブハウスで何曲か披露に及ぶが、客の反応はいまひとつ。ちなみにこの映画は、数々のビートルズ・ナンバーに彩られているが、すべて主人公を演じたヒメーシュ・パテルが演奏し歌っている。アフリカ系移民の2世とのことで、肌が浅黒い。
▲写真 「Build Studio」にて「イエスタデイ」について語るヒメーシュ・パテル氏(2019年6月25日、ニューヨーク) 出典:Photo by Michael Loccisano/Getty Images
ともあれ客の淡白なリアクションに、落ち込んでしまうジャック。幼馴染で最後に恋愛関係になるリリーに、こう愚痴をこぼす。
「JP(ジョンとポール)にあって、JM(ジャック・マリック)にないものが、なにかあるんだ」
まあ、この映画に「ツッコミどころ」があるとしたら、まずはそこだろうな、と思った。
ビートルズというバンドが1960年代の音楽シーンを席巻し、世界一有名だと称され、日本を含む世界各国のミュージシャンに影響を与えたのは、楽曲のすばらしさもさりながら、ジョン・レノン、ポールマッカートニーというカリスマの存在を抜きにして語ることはできないだろう。
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