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なぜ今ビートルズなのか 忘れ得ぬ一節、一場面 その3

Japan In-depth / 2021年7月23日 23時0分

話を戻して、ライブハウスの客にはいまひとつ受けなかった「ビートルズの楽曲」だが、音楽プロデューサーの目に留まり、ジャックは成りあがって行く。本当はこの世界にもビートルズが存在し、盗作だとして訴えられるのではないか、などと怯えながら。





このあたりの展開は非常に面白いので、主人公と一緒にハラハラしながら映画を見ることをおすすめする。





もうひとつだけ印象に残ったシーンを紹介させていただくと、モスクワでステージに立つのだが、なんと「バック・インUSSR」を歌い上げる。舞台から降りた彼に、スタッフが口々にかける賛辞は、





「ロシアでなくUSSR(ソ連邦)と歌ったのが、クールだったな」





というもの。1968年にリリースされた曲で、当時は様々な批判にさらされた、と記録にある。





米国の右翼団体は、フロリダからソ連邦へと帰るフライトを題材に、





「僕たちがどれほど幸福か分からないだろう」





という歌詞の一節だけをとらえて、ビートルズが親ソ派である証拠だと攻撃した。右翼にシャレが通じないのは、洋の東西を問わないのだろうか。





現実のソ連邦は、ロック音楽自体を「西側による文化汚染」として、レコードなどの輸入を禁じた。また、この年はソ連軍がチェコスロバキアにおける民主化の動き(世にいうプラハの春)に対し、戦車を繰り出して弾圧したことから、マスメディアにおいても





「理性を欠いた冗談としか思えない」





などと散々であった。





今となっては、このような話は「ビートルズが存在する世界」でさえ、ほとんど忘れられている。つまりこのシーンは、彼らの楽曲に対して勝手なことばかり言ってきた当時のジャーナリズムや政治家に対する、痛烈な皮肉になっているのである。





この映画のプロデュースも手掛けたダニー・ボイル監督自身、アイルランド系のカトリックで労働者階級に属する両親を持つ。





彼がこの映画で本当に描きたかったのは、こういうことではないだろうか。ビートルズが国境を越え、世代を超えて受け容れられた理由は、彼らが自分の出自と、文化的バックグラウンドを誇りに思い、その思いを楽曲に込めていたからだ、と。





この文脈で考えれば、マイノリティの俳優をあえて起用した事にも納得がゆく。





アジア太平洋戦争の終戦直後、あのマッカーサー元帥がこんなことを言ったそうだ。





「アメリカ人ならアメリカ人らしく、日本人なら日本人らしく振る舞える人間こそ立派だ」





彼のことはまったく好きになれないが、この言葉は好きだ。





(その1、その2)





トップ写真:「CinemaCon」で映画「Yesterday」をお披露目するダニー・ボイル監督(2019年4月3日、ラスベガス) 出典:Gabe Ginsberg/WireImage




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