「日本人にとって生き死にとは」続:身捨つるほどの祖国はありや 8
Japan In-depth / 2021年8月13日 0時9分
それにしても、安楽死は、生を終えるまでの話である。死は?生きている人にとって死とはなになのか。
佐伯氏は、51歳で癌を発見され10年間を生きた宗教学者、岸本英世氏の『死を見つめる心』(講談社文庫)を取り上げて、「死の恐怖とは、この自分が亡くなればこの世界も無くなってしまうという考えからでている。」と述べる。(211頁)「すべては『無』になる。ところが『無』を想像することができないので、そこに恐怖が生まれる。」と岸本氏の考えを紹介した後、さらに続けて、「この世界がなくなるというのは錯覚であって、実際には、私が死んでもこの世界は存在する。だから、死とは、私がこの世界に別れを告げるだけのことだ。」「この世界に別れを告げた自分は宇宙の霊に帰って永遠の休息に入るだけだ」という岸本氏の最期の考えを伝える。
岸本氏のその本は、私も9年前に読んでいた。確か、宗教学者の島薗進氏の本を読んでいて触発されたのだったという記憶だ。岸本氏の、未だ51歳という年齢で、受験を控えた子供がいる状況だったことが印象に残っている。手術につぐ手術で10年間を生き、61歳で死んだことになる。
佐伯氏自身はどう考えているのか。
というと、先ず、「現代の死生観の無力は、繰り返すが、西洋近代社会の価値観の帰結によるところが大きいのである。われわれはせいぜい、『死は無視し、生の充実と幸福追求だけが問題だ』という、いわば『死生観もどき』で満足するほかない。」と暫定的に述べる。その後に、「医学という科学の展開と医療という技術の進歩にすべてを委ねるという近代主義の『死にかた』とは異なったかんがえはないのだろうか。」として、「日本文化や日本思想には『死の無視と生の充足』とは違った死生観があったのではないだろうか」と論を進める。(205頁)
佐伯氏のめざすところは、どうやら「近代的な合理主義の背後に、もう一つ、我々は日本的な死生観を配置すべきであろう。」ということのようである。(214頁)
それは、岸本氏の述べた「『生と死』の間に『別れの準備』を差し挟んだ。」ということにも通ずるものであるらしい。「『別れの準備』を差し挟むことで、『死へむけた生』と『生を覚醒する死』がともに現れてくる。」というあたりになると、一読しただけではなかなか理解が難しい。
難しいままに読み進めると、「親しい人との一瞬の出会い、見慣れた山川の風景、道端に咲く草木を心から味わい、与えられた仕事を使命感をもってひとつひとつ力の限りこなしてゆく、こうした日常の『行』そのものが覚りであるという考えである。」というくだりに行きつく。「覚りは、一瞬、一瞬にあるという道元にならえば、日常の一瞬、一瞬の行いにこそ『別れの準備』がある、ということにもなろう。」というあたりが、佐伯氏の、現時点での、結論のようなものなのだろう。(213頁)
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