いまだ行われる生活保護費の水際対策
Japan In-depth / 2021年9月3日 16時0分
私は、Kさんの重複障害を考慮し、入寮先は個室が完備され、入寮者はできるだけ少人数でプログラムに向き合える回復施設を選んでお願いしていた。
出所後、約束通り回復施設に繋がったが、Kさんはやはり施設になじめず飛び出してしまい、東京に戻ってきた。そして今度は自分で、I区に生活保護を申請し、短期入所施設に落ち着いた。
Kさんの難しさは、障害が非常に分かりにくいところである。ギャンブル依存症はもちろん目に見えないが、単発的な接触だと、Kさんが抱えている精神遅滞はたいしたことではないと、一般的な扱いをされてしまうことである。
案の定、しばらくすると行政から「ここは短期施設なので」ということで、区内の依存症回復施設に入寮するか、自活しろということで決断を迫られてしまった。
Kさんは役所からそう言われれば「従うしかない」と思い込み、母親に下記のような手紙をつけて荷物を送ってきた。
▲写真 Kさんが母親に書いた手紙:筆者提供
「お久しぶりです。役所のたんとうに、〇〇〇にいくか、△△△にいくかいわれていやだったから、生活保で7月20日に切れることになったから今のりょうでることになりました
にもつあずかってください
お金はらえなくてすみません(筆者注:荷物の着払いのこと)
すむ場所がきまったらてがみかきます」
心配した母親がKさんに連絡を取り、一緒に区役所の担当者と交渉するもラチがあかず、困った母親から私に連絡があったので、私はただちにI区役所に向かい合流した。
ここで少し説明をしたいのだが、この記事を読んで下さっている方の中には「親がいるなら親が面倒を見ればいいだろう」と思われる方もいらっしゃるかもしれない。しかしギャンブル依存症は回復しにくい病気で、家族が抱え込んでいたのでは共倒れになってしまう。もちろん最初のうちはKさんのご両親も家族で何とかしようと、Kさんを叱ってみたり、説得を試みたり、借金を尻拭いしたりとやってみるのだが、事態は悪化するばかりでついに別居へと至った。
このように何はともあれ別居することにより家族の安全を確保して、当事者を地域の社会資源で連携しながら見守っていくことは依存症支援の基本である。しかし家族神話と自己責任論が強い日本では、こういったソーシャルワークによる地域連携がなかなか進まない。理解もなければ、資源も育たないという状況である。
私は区役所に到着後、担当者と話しをしようとしたが、担当者は手が空かないという理由で、なかなか机から離れようとしなかった。忍耐強く待ち1時間以上が経過した頃、担当者は廊下にいた私たちのもとにやって来たが、担当者は立ち話のままで、面倒くさいが話しを聞いてやろうという姿勢であった。
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