米国はなにを間違えたのか「列強の墓場」アフガニスタン その4
Japan In-depth / 2021年9月23日 11時0分
なぜそのようなことになったのかと問われれば、答えを見つけるのは簡単でないが、すでにこの連載でも指摘したことながら、時のブッシュ・ジュニア大統領は演説の中で、対テロ戦争を指して「十字軍」と称した。今さら取り返しはつかないが、これはいかにもまずかったとしか言えない。
もともと地球人口のおよそ22%、15億7000万人ほどもいるムスリムの中にあって、タリバンやアルカイダのような過激な原理主義にシンパシーを示す者など、多く見積もっても10万人いないだろうとされていた。
ところが、この「十字軍発言」によって、米国は対テロ戦争の名のもとに、イスラムを根絶やしにしようと図る(まさしくかつての十字軍のように)のではないか、との危機感が広まり、イスラム過激派によるジハード(聖戦)の呼びかけが、それなりの影響力を持ってしまったのである。
とりわけ、白人キリスト教徒から差別されている、と感じていた欧米のイスラム系移民の若者たちの中から、ジハードに参戦すべく中東まではせ参じるものが大勢現れたことは、欧米とイスラム諸国双方に衝撃を与えた。
それも極端な例に過ぎない、と決めつける向きもあるやも知れないが、タリバン政権が一度は崩壊したのに続き、中東諸国で民主化運動(世にいうアラブの春)が盛り上がった、その最中ですら、こんな言説が広まっていたことは指摘しておきたい。
「サウジアラビアで本当に民主的な選挙が実施されたなら、ビンラディン大統領が誕生してもおかしくない」
宗教がからむと、とかく一筋縄では行かなくなるという話なのだ。
本シリーズでは、前述のようにマスメディアとネタが被るのを避けるべく、軍事的な問題にスポットを当てつつアフガニスタンで起きたことを再検証して行こうと考えているが、もっと俯瞰的にこの問題を知りたいという向きに、朗報をお届けしたい。
9月29日、朝日カルチャーセンターにおいて、若林啓史博士が『中東近現代史とアフガニスタン問題』と題する講義を行うことになっている。時節柄リモート参加も推奨されている。
今は公職を退いているからと、本人の了解が得られたので明らかにするが、本誌の連載において、イスラムや中近東の問題を取り上げる都度、知見を拝借してきた「中東問題に詳しい元外交官」とは、若林博士のことだったのである。事実、イランやシリアの大使館に勤務し、シリア内戦に際しては大使館ぐるみ隣国ヨルダンに退避した経験もある。
言うなれば、イスラム圏の動乱をかぶりつきで見てきた人であり、本誌の読者諸賢にも、その知見を共有していただきたいと願うや切。断じて商業的な宣伝ではない。
次回と最終回では、これまでと同様、軍事的な側面にスポットを当てつつ、アフガニスタンの将来について、私なりの考察を開陳させていただきたい。
(つづく。その1、その2、その3)
トップ写真:世界貿易センタービル(ニューヨーク、2001年9月11日) 出典:Photo By Craig Allen/Getty Images
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