小室さんの論文コンテスト優勝はどれくらいすごいのか
Japan In-depth / 2021年10月27日 10時54分
そもそも、文章中に「~のように主張する人がいる」「データによれば」と述べるために、「Some people also argue that」「Some data imply」などという表現を使っているが、米国では学部生の期末ペーパーであっても、こんな稚拙な表現を使えば減点対象になる。代わりに、「Constitutional scholars put forth arguments on」とか、「Industry data indicate」のように、主語をより具体的に伝えなければならないからだ。とは言え、実務的かつ実用的な情報に関しては、有用なデータを簡潔に上手くまとめている。
全般的には、小室氏の論文は学問的には残念なレベルだと筆者は感じる。学術論文で一番大切な「独自の視点」「ユニークな疑問」「仮説と検証」に欠け、結論として「法の仕組みを強化しなければならない」と当たり前のことを言っているだけであるからだ。具体的な方策や道筋として、米証券取引委員会(SEC)の規制基準の明確化などの提言を行っているが、一般論の域を出ておらず、高い独創性があるとは言えない。
■ お金集めへの関心
以上のように筆者は、小室氏の前回の論文の学問的な価値はさほど高くないと考える。しかし、別の視点から彼の論文を読み解くと、面白いことが見えてくる。
それは、小室氏の「金集め」「詐欺」や「信用」への強い関心だ。たとえば小室氏は、ウェブ上の資金調達であるクラウドファンディングのプロセスで、詐欺行為やその懸念が高まることで、出資者からの資金調達に制約がかけられてしまうことに注目する。
ここで小室氏は、情報開示などのオープンで公正な解決策が、実際に詐欺行為を減らせるかを疑問視する声があることを紹介し、ディスクロージャーが知識の深い投資家をして出資を踏み止まらせたり、当局の規制が資金調達を困難にするネガティブな側面にフォーカスを当てている。つまり、プロセスの公正さや出資者の保護よりは、お金を調達する側からの都合と視点が前面に押し出されているように見えるのだ。
このようにして小室氏は、出資者保護のための規制強化が、クラウドファンディング発展に必ずしも寄与しないと示唆し、「出資側の信頼を損ねれば、資金調達が困難になる」という、お金を集める側からの真理を説いて、論文を結んでいる。つまり「信用」を、ステークホルダーの互恵や社会制度の公正さといった視点から捉えるのではなく、単なるお金集めのツールあるいはひとつの機能的要素として見ている。
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