「真珠湾攻撃」80年〝だまし討ち〟の汚名避ける方法はあった
Japan In-depth / 2021年12月6日 18時0分
これが事実とすれば、実際にハル国務長官に手渡した覚書に、手書きの部分がなかり加えられていただろうことは想像がつく。それなら、なぜ、最初から手書きにして午後1時に合わせなかったのだろうか。
藤山氏も「ペンや鉛筆で加筆修正した汚い文書をそのまま提出する方法もあった」と悔やみながら述べている(前掲書)。
体裁は悪いが、末代まで「無通告攻撃」「だまし討ち」の汚名を着せられるよりはるかにましだったろう。
■慣例に反すると考え清書に拘泥?
日本側が、ここまで形式にこだわったことについての、興味深い解説を紹介しよう。関西学院大学の井口治夫教授(アメリカ政治・外交、日米関係)だ。
▲写真 井口治夫氏 出典:関西学院大学ウェブサイト
氏は2点を指摘する。
ひとつは、日米交渉打ち切りの通告という極めて重要な文書は、後世に外交文書として残るものであるから、あくまでも清書して形式を整えることが必要と判断したのではないかということ。
条約上の義務などではないが、タイプによる清書は外交慣例でもあったというから、大使館員はそれに拘泥したのかもしれない。
もうひとつは、多くの手書き部分が含まれている文書を先方に手渡せば、ことが事だけに、アメリカ側に文書の真偽、出所について疑念を抱かせるおそれがあると考えたのではないかという推論だ。
たしかに、形式が不備の文書なら、第3者が勝手にでっちあげたのではないかと疑いをもたれる可能性もあったろう。
■「宣戦布告」の明言なく、判断誤る
加えて井口教授は、交渉打ち切りの文書に、開戦を予告する文言が一切なかったことも、大使館が事の重大性をいまひとつ理解できかなった原因のひとつになったのではないかとも推論する。
藤山氏も「宣戦布告が明示されていたら、汚いままの文書を提出していたろう」と述べており、結果的に井口説を補強する形になっている。
ちなみに、井口教授の祖父は、当時ワシントンの大使館で大使を補佐する要職にあった井口貞夫参事官(戦後、外務事務次官)だ。遅延問題をめぐる研究で必ずと言っていいほど名前が登場する。
■大使館は開戦予想せず、外務省は不親切
こうなれば、だれが悪い、だれが責任を負うべきだなどという次元の問題ではもはやなくなる。悲劇というべきだろう。
この問題の本質を突いた明快な見解がある。
来栖特派大使に同行してワシントンに出張していた結城司郎次参事官の極東軍事裁判における証言(昭和22年8月)だ。
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