規律ある弾力的な財政支出 極論の狭間のバランス論
Japan In-depth / 2021年12月29日 0時30分
個人の例で言えば、今後予想される収入との対比で借金残高が発散してしまうような者は、さらに借金を増額することはできない。ここでも、国と個人は違うという反論もあろう。しかし、国の追加的な負債の調達が金融市場で不可能になった例は古今東西いくらでもある。それでも国が資金調達を強行するなら、それは、形式はどうであれ、臨時の増税に他ならない。そうした事態を避けるには、国の借金残高が今後の税収との関係で発散する経路に乗っていないことが必要最低限の条件になるだろう。
その比率が将来のある時点で一定の数字に収束する姿を金融市場に示しながら、国債の発行余地を探っていくという規律のあり方は考えられないだろうか。これは、PBの黒字化よりは緩い条件だが、しかし1つの規律ではある。緩い条件とはなるが、これとて社会保障関連支出のこれからの増加を考えれば決して悠々と達成できるようなものではない。
■ 政府にも最適レバレッジ比率があるはず
この国の借金残高と将来に亘る税収との比率が、何%であれば大丈夫なのであろうか。この比率の意味をさらに考えると、それは政府のバランスシートにおける負債・資本比率のようなものだということに気が付く。いわゆるレバレッジ比率と呼ばれるものだ。
当然、国には資本はない。企業にとっては、資本は返済期限も返済の必要もない資金である。ただし、株式会社であれば、配当を払わねばならず、株主から経営に関する統治、ガバナンスを受けなくてはならない。この関係を国に当てはめれば、将来に亘って入ってくる税収の価値は言わば資本のようなものである。配当は、国民に対する様々な行政サービスに当たる。ガバナンスは、民主主義国家であれば国政選挙を通じてなされる。
こう考えると、国債の残高と将来の税収の価値の比率は、レバレッジ比率のようなもの、ということになる。企業と同様に、国家にとってもそれはゼロではないだろう。国家が永続するなら、何らかの最適なレバレッジ比率があるはずだ。ただ、理論的にその最適比率を計算することもまた容易ではない。企業の最適レバレッジ比率も一様には決まらない。
もっとも、その比率が高くなり過ぎれば、国の調達金利である国債金利は上昇するだろう。逆に、まだ余裕があるのであれば、国債発行残高が増えても金利は安定したままだろう。現在までのところはそういう状況なのかもしれない。国のレバレッジ比率がいくつなら良いのか。それは国が金融市場との対話のなかで探っていく以外にない。
そのためにも、30年あるいは50年といった長期的な時間経過の中で財政バランスを評価することが必要だ。その作業を行うのが、最近、時々耳にする「独立財政機関」ということになるのだろう。権威ある組織が示す長期ビジョンを企業、家計、金融市場が共有できてはじめて、長期的な財政の規律を失うことなく、しかしながら国は必要な時に必要な歳出を弾力的に実行できるようになる。これが、冒頭に述べた極論の狭間にあるバランス論になりはしないだろうか。
トップ写真:フランクフルトで開催された、中央銀行のコミュニケーションについて議論するパネルでの黒田東彦日本銀行総裁(2017-11-14) 出典:Photo by Hannelore Foerster
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