戦争回避の「よき前例」を(下)「2022年を占う!」国際情勢
Japan In-depth / 2022年1月2日 19時23分
林信吾(作家・ジャーナリスト)
林信吾の「西方見聞録」
【まとめ】
・1月末にもと懸念されたロシアによるウクライナ侵攻は当面回避か
・北方領土問題を抱える日本にとって、ウクライナ問題は「地球の裏側の騒ぎ」ではない
・「ウクライナのNATO加盟認めるが、米英独軍などは駐留せず、基地新設もしない」で妥結すれば、日本にとって良い前例に
ウクライナは、今でこそ旧ソ連邦から独立し、東部クリミア半島の帰属などめぐって、ロシアと一触即発の状態にあることが取り沙汰されているが、かつて中欧・東欧の人々が「ルーシ」「ロシア」と呼んだのは、現在のロシア連邦ではなくウクライナの版図であった。
ロシアよりも南に位置し、黒海に面した比較的温暖な気候で、16世紀には「ヨーロッパの穀倉」と称されたほど物なりがよい。炭鉱はあるが、石油や天然ガスは70パーセント以上をロシアからの輸入に依存していると聞く。
ヒトラーが対ソ戦争を仕掛けた際も、4週間でモスクワを占領するという「電撃戦」が頓挫するや、兵力の多くをキエフ(ウクライナの首都)方面に転じ、食料や燃料を確保して、長期戦へ備えようとした。結果的には、こうした戦略のブレが東部戦線での大敗北につながったのだが、その話はさておき。
現在のロシアは、クリミア半島など東部に住むロシア系もしくは親ロシアの住民による投票で、同地のロシアへの帰属が可決されたとして、ふたつの共和国を承認する事を通じて、実効支配を続けている。
一方ウクライナ政府は、国境線の変更は国民投票を通じてのみ可能であるというのが憲法上の規定であり、投票自体が無効だとしている。国連なども現在のところウクライナの主張を支持している。
この半島は、ロシアにとっては黒海への玄関口であるため、手放すことはできないのだ。
▲画像 クリミア半島(CRIMER)の位置 出典:Pete_Flyer/Getty Images
歴史的にも、いささかややこしい。
13世紀にモンゴル帝国が侵攻し、キエフ大公国と東ローマ帝国がクリミア半島の支配権を失ったが、その後ロシア系が多くを占めるコサックがモンゴルに対する抵抗を続けた。当時のヨーロッパで、モンゴル騎兵と互角に渡り合えるのはコサックくらいなものであった。
その後の紆余曲折は、とてもここで書き切れるものではないので、一挙に話が20世紀まで飛ぶことをお許し願いたいが、ソ連邦が成立すると、矛盾した政策が採られることとなった。
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