10式戦車の調達は陸自を弱体化させるだけ(上)
Japan In-depth / 2022年1月12日 23時0分
制空権を取られればいくら優秀な戦車があっても機甲部隊は航空攻撃で容易に撃破される。特に昨今では徘徊型自爆ドローンによって陸自の戦車は一方的に虐殺されるだろう。これがどれほど空想的なシナリオだということは高度な軍事知識をもっていなくとも、常識がある人間であれば容易に理解できよう。
実際に防衛大綱では短中期的に想定している脅威は島嶼防衛であり、またゲリラ・コマンドウ、弾道弾、そしてサイバーである。ゲリラ・コマンドウ対処の場合、戦車の役割は大規模な機甲戦闘では行われない。戦車は普通科(歩兵)部隊への火力支援を行い、敵の火力を吸収する「移動砲台」である。そうであれば何も最新式の戦車は必要ない。しかもその「移動砲台」として軽量が取り柄の10式は向いていない。
10式導入の理由は戦闘重量44トンというその軽量さある。90式と同じ第3世代を改良した他国の戦車は概ね60~70トンに達している。第3世代としては軽量の部類である90式戦車は50トンだ。
全国の主要国道の橋梁1万7,920ヶ所の橋梁通過率は10式が84%、50トンの90式が65%、62-65トンの海外主力戦車は約40%とされている。つまり90式でも重すぎて北海道以外では使いにくい、10式ならば増加装甲と燃料弾薬を抜けば40トンになり、本土の多くの部分に迅速に展開できる、というのが防衛省と陸幕の言い分だ。
▲写真 第3世代の90式戦車(著者提供)
だが先述のように、日本本土で本格的な機甲戦闘が行われる可能性は皆無に近い。ゲリラ・コマンドウ対処であれば通れない橋梁は迂回すればいいだけの話だ。橋梁通過率を19パーセント上げるためだけに巨額の費用をかけて10式を開発調達する意義は極めて薄かった。
そもそもそのような運用は絵に描いた餅に過ぎない。戦車及び機甲部隊の装軌装甲車輌は長距離を自走して移動できない。駆動系に負担が掛かるので、故障が多発する。また振動が強いので乗員は疲労がたまる。このため戦車を始め、装軌装甲車輌はトランスポーターと呼ばれる大型トレーラーに載せて運搬する。だが陸自ではトランスポーターが不足しており、戦車連隊に数輌程度しかない。無理をして装軌装甲車両を長駆させれば故障は続出して、稼働率は下がり、乗員は疲労激しい状態で戦わないといけない。
10式は弾薬や増加装甲などをはずして、40トンに重量を減らせば民間の40トントレーラーでも輸送できることをセールスポイントにしているが、それを可能にする法令は存在しない。トレーラーを徴用しても運転手はいない。10式を民間トレーラーに搭載して連隊単位で実戦に投入するとういうのはフィクションに過ぎない。
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