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ブレグジットから1年、その功罪

Japan In-depth / 2022年1月17日 23時0分

ブレグジットから1年、その功罪


村上直久(時事総研客員研究員、長岡技術科学大学大学院非常勤講師)


「村上直久のEUフォーカス」


【まとめ】
・ブレグジットから一年、EUとの貿易が大幅に縮小した英国。


・グローバル・ブリテン戦略の一環として、インド太平洋地域への関心のシフト。


・英国は、英領北アイルランドに関する取り決めを先送りにしている。


 


 4年間の政治的混乱を経て、2021年初めにようやく実現した英国の欧州連合(EU)からの完全離脱(ブレグジット)から1年が経過した。英国のジョンソン政権は新型コロナウイルス禍への対応に追われて、ブレグジットがもたらした功罪を精査する余裕はないようにみえる。


 ブレグジットにより英国の欧州大陸との貿易は激減し、EU加盟東欧諸国からの移民労働者が大挙して帰国したため、英国では観光、運輸、小売、介護業界などで人手不足が深刻化している。また、英国とEUの間では英領北アイルランドの地位をめぐる対立が解消していない。


◼️  縮む貿易


 ブレグジットの完了以前から予想されていたことだが、案の定、ブレグジットによって英国とEUの大半の加盟国が位置する欧州大陸との間の貿易をめぐる煩雑な手続きなどが復活し、そのため時間もコストもかかり、貿易数量は激減した。時間との勝負となる生鮮食料品の輸送のみならず、工業製品・部品も英国からEUに輸出する場合は、EU規格・基準への適合を求められ、通関、輸送が滞るケースが多発するようになった。


 ブレグジットで英国はEUの単一市場から抜け出た。これによりEUと欧州大陸の貿易では”見えない壁”が出現した。英企業の間では、英国がEUに加盟していた時代には享受できたビジネス機会も失うことが多くなった。


 英国の調査団体である英貿易政策観測所によると、ブレグジット後の最初の7カ月間(2021年1〜7月)、英国からEUへの輸出は前年同期比14%、EUから英国への輸入は24%それぞれ減少した。これは双方向で440億ポンドの貿易が失われたことを意味する。ただ、この貿易統計は、欧州大陸への輸出で英企業が競争力の低下に苦しんでいる実態を正確に反映していないとみられる。


 英国とEUはブレグジットを間近に控えて、英EU間貿易における関税と市場アクセスでの数量割り当ての免除を柱とする貿易協定に合意した。しかし、越境に必要な書類の作成や物品がEU規制基準に適合しているとの証明の提示は英企業にとって煩わしい作業であることに変わりはない。 


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