「折衷案」こそ諸悪の根源(上)民法改正「18歳成人」に思う その4
Japan In-depth / 2022年1月25日 19時0分
アジア太平洋戦争の末期、日本の国土は米軍による空襲で焦土と化し、そうした戦災によって親も家も失った、という子供たちが、生きるために窃盗や売春といった犯罪行為に手を染める例が多かった。
アニメ映画も公開されているので、ご存じの読者も多いのではないかと思われるが、野坂昭如の直木賞受賞作『火垂るの墓』は、まさにこうした戦災孤児である兄妹の、まことに悲惨な生と死を描いたものだ。
彼らは言うなれば、大人が引き起こした戦争の犠牲者なので、その非行を「泥棒は泥棒だ」という論理で厳しく罰するのは、むしろ社会正義にそぐわない、とされたのである。
当時の日本はまだ連合軍による占領下で、この法律案もGHQ(占領軍総司令部)に逐一お伺いを立てながら作成された。米国にも少年裁判所法というものがあって、これをたたき台に作成されたとも言われるが、取り調べから審判に至るまで威嚇的な言葉遣い等を禁じるなど、法の執行にかなりの縛りがかけられている。その理由は、
「少年の健全な育成を期すため、非行のある少年に対しては性格の矯正および環境の調整に関する保護処分を行い、少年の刑事事件について特別の処置を講ずることを目的とする」(少年法第1条より抜粋)
とされているからである。
私見この精神は正しいと思うが、敗戦から半世紀以上が経ち、飢餓状態どころか飽食とまで言われるようになった今の世に、前述のような経緯で施行された少年法を残しておく意味があるのか、という議論もまた、傾聴に値すると思う。
と言うのは、成人を対象とした刑務所にせよ、犯罪者を罰するというよりは更生を促すことに主眼を置くタテマエとなっているわけだし、少年法廃止論議について、ただちに「更生の可能性を否定するもの」とは見なしがたいからだ。
ならばどうして、今次の少年法改正には疑問が残ると述べたのか。
まず、少年法第51条には、犯行時18歳未満の者について、
「死刑をもって処断すべき時は無期刑、無期懲役をもって処断すべき時は20年以下の懲役刑とする」(要約は筆者)
と定められている。逆に言えば、18歳、19歳であれば死刑を言い渡すことも可能であった。実際に、この年齢で死刑判決を受けた例は複数ある。
私はこれについて、かねてから異議を唱えてきた。
理由は簡単で、従前の法体系においては20歳未満に選挙権がなかったからだ。
政治参加の権利はないのに、重罪を犯した時だけ「一人前扱い」されるのでは、明らかに法の下における平等という精神に反する。本シリーズの最初に、公職選挙法が一部改正され、18歳以上に選挙権が付与されて、それから民法が改正されたことを「本末転倒」だと批判したのも、これと同じ文脈においてである。
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