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日本語は乱れているのか(上) 日本の言論状況を考える その3

Japan In-depth / 2022年2月23日 12時3分

日本語は乱れているのか(上) 日本の言論状況を考える その3


林信吾(作家・ジャーナリスト)


【まとめ】
・「日本語の乱れ」を調べたら、清少納言が『枕草子』で『と抜き言葉』を嘆いていて驚いた。


・変遷しながらも、正しい言い回しが残るのか。会話はまだしも文章化はよくないとの感覚も継承か。


・略語や便利な言い回しは、必ず人口に膾炙する。日本語も英語も不断に変わっているに過ぎない。


 


 またまた個人的な思いから語り始めることをお許しいただきたい。


 1970年頃、元号で言うと昭和40年代の高度経済成長期だが、私は小学生で、それも「正しい昭和の小学生」として漫画を乱読していた。


ある日、私の父親が唐突に、


「赤塚不二夫とか、訴えてやろうかな。日本語を乱している、ということで」


 などと言い出したことがある。若い読者にはピンとこない話題かも知れないが、当時人気を博していた『おそ松くん』に登場するキャラクターが、


「シェー」「……だよーん」


 といった言葉を乱発するのが気に入らなかったらしい。


 もちろん本気の発言ではなかっただろうが、成長して自身もジャーナリズムで働き、職業柄、法律や裁判についての文献もそれなりに読んだ今の私には、本当に訴えたところで、おそらくは裁判所に門前払いされただろう、と容易に想像がつく。原告不適格と言うのだが、要するに、具体的な損害や迷惑をこうむったわけでもないのに、無闇に訴訟を起こすべきではないということだ。


 どうして唐突にこのようなことを思い出したかと言うと、日本語が乱れている、と考える人が多いのは今に始まったことではないが、さてそれでは、そうした問題提起がなされるようになったのは具体的にいつ頃からなのか、と疑問に思ったからである。


 驚くなかれ……いや、調べた当人すなわち私自身が驚かされたのだが、なんと平安時代までさかのぼるのだ。


 清少納言が『枕草子』の中で、


「この頃さあ、男も女も、言葉遣いが少しおかしくね?」(現代語訳・林信吾)


 みたいなことを書いている。


 いや、真面目な話、彼女がやり玉に挙げたのは、これも今風に言うとだが「と抜き言葉」であった。「言わんとす」と表現しなければならないところを「言わんずる」にしてしまう人が増えていて、それも会話だけならまだしも手紙文にまで散見されるのは「言うべきにもあらず」だとか。要するに、論外だと斬り捨てているのである。


 しかしながら、よく考えてみると、これは驚くに値しないことかも知れない。


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