日本はインフレにはならないのか 欧米とコントラストをなす日本の金融政策
Japan In-depth / 2022年3月2日 18時0分
ところで、名目金利と実質金利とインフレ期待の間には、次のような関係が成り立つと言われている。「名目金利=実質金利+期待インフレ率」
これは、最初に提唱した経済学者の名前を冠して「フィッシャーの関係式」と呼ばれている。日本の1990年代においては、名目金利を10年もの国債の流通利回り、期待インフレ率を実際の消費者物価前年比と置くと、大雑把にみてこの関係が成立していた。その時の実質金利は、2%台後半という推計になる。
この関係が、2000年代以降は全く成立しなくなる。言うまでもなく、日本銀行の積極的な金融緩和が長期金利を下へ下へと引っ張り下ろしてきたからだし、また潜在成長力と密接に関係する実質金利が低下したからである。
今後、どこかの時点で再びフィッシャー関係式が成立するようになると、実質金利が0.5%まで低下しているとしても、長期金利は、インフレ率が0.5%で1%、インフレ率が1%なら1.5%になる計算だ。足元の長期金利の天井が0.25%であることを考えると、仰ぎ見るような水準だ。このギャップこそが現在の長期金利に溜まっている上昇圧力と言うことができる。
いつの日か、日本経済でも自律的に一定のインフレ率が実現するようになれば、その時には異次元緩和ではなくなるはずだし、長期金利も少なくとも今よりは高くなるはずだ。そうした状況に秩序だって至るためには、日本経済においても、賃金や投資へのリターンを引き上げることが可能な分野へと、経営資源が円滑にシフトしていかなければならない。もちろん、それに様々な摩擦が伴うことは不可避だが、それなしには金融政策が異次元から抜け出すこともまた難しいだろう。
他方で、もし財政収支の長期的な持続可能性が担保されなければ、国であってもいつかは金融市場での資金調達が困難化する。すなわち国債金利が上昇する。その時、金融市場では上述のフィッシャーの関係式が復活する方向の力が生じるはずである。それは、溜まっている上昇圧力が一挙に解放されるかたちで起こるかもしれない。
トップ写真:品川駅の出勤風景 2020年5月26日、日本・東京
出典)Photo by Carl Court/Getty Images
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