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独裁者の計算と誤算(下)「プーチンの戦争」をめぐって その2

Japan In-depth / 2022年3月23日 7時0分

……いささか前置きが長くなったが、要はプーチン大統領がウクライナ侵攻を正当化すべく並べ立てた大義名分など、どれも後付けの理屈に過ぎない、ということだ。





そうであるなら、彼はいかなる戦略のもとに侵攻を決断し、いかなる誤算が生じたのか。





当初の計画では、この戦争は4日で終わる、と考えられたらしい。これは私一人の推論ではなく、いまや西側軍事筋の間で支配的になりつつある見方である。





実際、NATOが公表したところによると、戦端が開かれた2月24日の未明以来、最初の24時間で700発を超すミサイルや精密誘導爆弾が撃ち込まれ、ウクライナのC4I(指揮・統制・通信・コンピューターおよび情報)システムは完全に叩き潰された。





それから戦車の大群を先頭にウクライナ領内になだれ込めば、親ロシア派の住民からも協力が得られるであろうし、キエフなど4日で陥落する。その後、親ロシアの政権を作るか、かねてから要求していた「NATO加盟の撤回、中立化」を呑ませればよい。





ところが、ここにプーチン大統領の大いなる誤算があった。





たしかに侵攻が現実味を帯びてくる以前、具体的には昨年秋の段階では、ゼレンスキー大統領の支持率は30%程度でしかなかった。とりわけその金権腐敗ぶりに対する批判は、高まる一方だったのである。それだけが根拠というわけではないが、ウクライナが軍民あげて、あそこまで頑強に抵抗するとは、プーチン大統領のみならず大半の人が予測できなかったことは事実だ。





ナチス・ドイツ軍がソ連邦に攻め込んだ時も、4週間でモスクワを占領できる、と考えていた。総統アドルフ・ヒトラーは、





「わが軍の任務はドアを蹴飛ばすだけ」





と豪語していたのである。悪名高いスターリンの大粛正により、共産党組織も赤軍も崩壊寸前の状態にある、との情報がもたらされていたからで、その情報自体は不幸にも正鵠を得ていたのだが、侵略者に立ち向かう精神はまた別ものだ。ソ連邦は2000万人を超す犠牲者を出しつつ、最終的にはナチス・ドイツ軍を粉砕した。





つまりプーチン大統領が犯した誤算の第一とは、ウクライナ人の戦意および戦闘スキルの高さを侮ったことにある。帝政ロシア時代のウクライナ兵と言えば、あのコサック騎兵の供給源で、いざとなった時の勇猛果敢さは、どこの国の兵士にも決してひけは取らない。





しかも、今次のウクライナ軍は、前述のような経緯で、孤立した各部隊が機甲戦力において圧倒的なロシア軍にゲリラ戦を挑む、という戦い方を強いられたが、これが予想以上に効果的であった。今では歩兵一名で携行・操作できる対戦車ミサイルや地対空ミサイルが普及し、かつ性能面でも長足の進歩を遂げている。





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