独裁者の計算と誤算(下)「プーチンの戦争」をめぐって その2
Japan In-depth / 2022年3月23日 7時0分
とりわけ米国から供与されたFGMー148ジャベリン対戦車ミサイルは、多数のロシア戦車や装甲先戦闘車両をノックアウトし、ウクライナ兵から「聖ジャベリン」と呼ばれたと聞く。
カメラと制御装置を組み込んだ完全自立誘導式で、ファイア・アンド・フォゲットすなわち撃ちっぱなしが可能である。従前のリモート式やレーザー誘導式だと、命中するまで標的を照準器の中にとらえておく必要があったが、これは発射と同時に退避できる。待ち伏せ攻撃にはうってつけだ。
▲写真 オーストラリア軍の演習で発射されるジャベリン対戦車ミサイル(2019年5月9日) 出典:Photo by Scott Barbour/Getty Images
ちなみにこのミサイルは、高性能な分、歩兵装備としては極めつきに高価で、1発が邦貨にして1800万円以上もする。物量自慢の米軍でさえ、めったに実弾射撃訓練をしないほどだ。それをウクライナ軍には惜しみなく供与した。
いくら高性能のミサイルがあっても、敵の動静を把握できなければ、効果的な待ち伏せ攻撃など不可能だが、この点でも、米軍は偵察衛星などで得た情報を、インターネットを使ってウクライナ軍に流したようだ。詳細は機密のベールに包まれて不明だが、ペンタゴン(米国防総省)も、情報を流したことは認めている。
まさしく現代戦においては、情報こそ最強の武器であるということを見せつけたのだ。
一方のロシア軍だが、当初こそ「電撃戦」を成功させるかに見えたが、戦闘が2週間、3週間と長引くにつれて、短期決戦を想定していたため兵站がお粗末であったことが露呈してしまった。実際に多くの戦闘車両がガス欠で放棄され、ウクライナ軍によって鹵獲(ろかく)されてしまっている。
このことはまた、未熟な召集兵を最前線に送り出すことはしていない、というプーチン大統領が国民に向けてなした説明が、虚偽であったことを証拠立てている。
やむを得ず兵器を放棄する場合、敵に鹵獲・再利用されないよう破壊しておくのがセオリーなのだが(車両の場合なら、運転席に手榴弾を放り込めば済む)、その程度のことさえできていなかった。旧ソ連軍であったなら、収容所送りにされたケースだ。
誤算の第二は、西側諸国による経済制裁のインパクトを過小評価したことだろう。
侵攻に際して、経済制裁が科せられることは当然予測していたのだが、ロシアには6300億ドルもの外貨準備があり、かつ石油や天然ガスなどの輸出で毎月140億ドルも稼いでいたため、駐スウェーデン大使の言葉を借りれば「言い方は悪いが、屁でもない」という態度であった。
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