北朝鮮に虚を突かれたバイデン政権
Japan In-depth / 2022年3月31日 13時17分
古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)
「古森義久の内外透視」
【まとめ】
・北朝鮮による新型ICBM発射はバイデン政権にも大きな衝撃を与えた。
・バイデン政権は北朝鮮が中距離、短距離のミサイル発射を繰り返しても、具体的な抑止措置はとらなかった。
・バイデン政権は、北朝鮮への新たな取り組みを迫られることとなった。
北朝鮮による3月24日の新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)はアメリカのバイデン政権にも大きな衝撃を与えた。このミサイルは北朝鮮当局が発表したアメリカ本土にも届く「火星17」ではなく、1段階下の「火星15」だとする見解もアメリカ側の一部には存在する。だが北朝鮮がこれまで停止していたICBMの実験発射であることは確実視される。同時に北朝鮮による核兵器開発の実験の再開も予測されるようになった。
この展開はバイデン政権にとっては北朝鮮政策の破綻といえそうだ。アメリカ政府はトランプ前政権時代の2018年に北朝鮮から核兵器の開発実験とICBM発射実験を中止するという公約を取りつけていた。それがバイデン政権登場1年余りで、あっさりと、しかも突然、破られたわけだ。バイデン政権の反応は予期しない北朝鮮の動きにあたふた、という感じが否めない。
バイデン政権は北朝鮮が日本などを射程におさめる中距離、短距離のミサイル発射を頻繁に繰り返しても、具体的な抑止措置はとらなかった。アメリカ本土には届かないミサイルだから、という感じだった。だがその構図がひっくり返ったのである。しかしそれでもバイデン政権がこの新危機に具体的にどう対処するのかの展望が浮かんでこない。
写真:駅で放映される北朝鮮のミサイル発射の様子(2022年3月24日 韓国・ソウル)
出典:Photo by Chung Sung-Jun/Getty Images
私はバイデン政権下のワシントンでこの1年余、北朝鮮政策に注意を払ってきた。だがその政策や戦略の実態が少しも浮かんでこなかった。そもそも政権の当事者たちが北朝鮮という言葉を口にすることがほとんどないのである。驚くほどの北朝鮮非核化問題の軽視だった。
その典型例は今年2月11日にバイデン政権が発表した「インド太平洋戦略」と題する報告書だった。同政権として初めてインド太平洋地域の脅威や激動にどう対応するかを総合的にまとめた文書だった。
だが驚くことに、この戦略文書には北朝鮮の脅威への言及がないに等しかった。バイデン政権が北朝鮮の核兵器や各種ミサイルの開発の阻止を重視していない、あるいは、そこまで手が回らない、取り組みたくない、という実態の反映のようだった。
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