国産防弾装備を盲信する岸防衛大臣の見識 その2
Japan In-depth / 2022年4月23日 11時0分
清谷信一(防衛ジャーナリスト)
【まとめ】
・プレート・キャリアやコンバットシャツなど先進国と途上国に導入されている防弾装備は陸上自衛隊で未導入。
・陸上自衛隊は実戦で隊員が死傷することを前提に、衛生装備を開発調達してこなかった。
・予算倍増以前に自衛隊は軍隊の常識を学ぶ必要がある。
現在ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領がメディアに登場しない日はないが、彼がよく装着しているのがプレート・キャリアと呼ばれる防弾装備だ。
これは防弾チョッキに使用されている防弾プレートを体の前後に装着するためのものだ。場合によっては側面などにもプレートを追加する。
プレート・キャリアは今や軍隊の必須個人防弾装備であり、先進国のみならず、日本からODAを受けているような途上国ですら導入が進んでいる。だが陸上自衛隊ではこれは未導入だ。先進国でこれを導入していないのは陸自だけだろう。
従来の防弾チョッキの砲弾の破片などから身を守るソフトアーマーに加えて、小銃弾の直撃から身を守るプレートを組み合わせたシステムだ。だがこれだと重すぎ、機動的に動けないし、疲労も蓄積する。特に夏場は体温が籠もって熱中症になる危険性も高まる。
「防弾チョッキ3型改」の重量は公開されていないが、恐らくは15キロ前後にはなるだろう。普通科隊員の個人装備は30〜35キロ程度だから合わせて45キロぐらいになる。これを一日中着て活動するのは非現実的だ。ことに高温多湿の夏場では尚更体力を消耗する。
世界的に昨今歩兵の個人装備が重量化して、背骨や腰、足首を痛める将兵が増えている。このためより軽量で、バイタルパートだけを保護するプレート・キャリアが世界的に使用されるようになった。
しかも防弾チョッキ3型改にいたっても3型同様にソフトアーマーもプレートも諸外国の約2倍の厚さであり、更に緩衝材も内側につけるので、まるできぐるみだ。このプレートは小銃弾を防げないと、開発に関わった元隊員は証言する。とても実戦に使用できるものではない。
自衛隊が国産装備開発の理由にする「我が国独自の環境」を考慮するならば夏場に、防弾チョッキ3型を常時着用することは不可能だ。本来であれば他国に先駆けてプレート・キャリアを導入すべきだった。
陸自は米軍のみならず、英仏壕軍とも共同訓練をしているが、これらの軍隊がプレート・キャリアを使用しているに、なぜ自分たちは導入していないのか、疑問に感じないのであれば、想像力が欠如している。想像力の無い前例墨守型軍隊はたいてい弱い。
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