意外と深い「時そば」の世界観 方言とソウルフードについて その4
Japan In-depth / 2022年4月26日 7時59分
林信吾(作家・ジャーナリスト)
林信吾の「西方見聞録」
【まとめ】
・噺の蕎麦屋をほめちぎるやりとりに、江戸時代の「B級グルメの神髄」が描かれている。
・「卓袱(しっぽく)」の由来、箸とフォークの歴史、器と素材選び、江戸後期の国風文化の成熟…。
・知識を仕込んで『時そば』を聞けば、江戸落語と日本の食文化の、新たな魅力に気づく。
今回この記事を書くために、いつもは「空き時間の友」でしかないYouTubeに、検索ワードを入力して2時間あまり視聴した。色々な師匠の『時そば』を聴くためだが、特に面白かったのは、若手の噺家さんが上げた動画で、
「このところずっと、蕎麦をたぐる(食べる)練習して、少し自信がついてきたから、近いうちに高座にかけてみようかな」
「でも、あまりにポピュラーなんで、やりにくいんだよね」
などと語っていた。
たしかにこの噺は、見ている方まで蕎麦が食べたくなるように演じられないうちは、高座にかける(寄席で演じること)べきではない、などと言われているらしい。芸事はなんでもそうだが、基本的なものほど難しいのだ。
ストーリーだけなら、ご存じの向きもおられようが、屋台の夜鳴き蕎麦屋で、16文(現在の貨幣価値で500円ほど)の代金を、
「銭、細けえんだ(小銭しか持っていない)」と言って「ひい、ふう、みい」と数えつつ渡して行き、途中で「何時(なんどき)だい?」と問いかける。蕎麦屋が反射的に「へえ、ここのつ(深夜零時前)」と答えるや、すかさず「じゅう、じゅういち……」とやって一文ごまかす。
これを陰から見ていた男が、からくりに気づいて「俺もやってみよう」と翌日、小銭を懐に蕎麦屋を呼び止めるのだが、あとは是非とも実演を見ていただきたい。個人的に大好きなのは柳家喬太郎師匠の噺で、特にマクラの部分が『コロッケそば』という一席になっており、シャレがきついを通り越して、もはや無茶苦茶だが、とにかく笑える。
もともとは上方落語の『時うどん』で、三代目の柳家小さんが改作して江戸に持ち込んだと聞くが、私がこの噺を好んで聴くのは、釣り銭をごまかす描写などより、最初の蕎麦屋をほめちぎるやりとりの中に、江戸時代の「B級グルメの神髄」が描かれているからだ。
まず、注文するのが「しっぽくそば」。
漢字を当てると「卓袱」で、本来はテーブルクロスのことだ。
江戸時代の長崎において、オランダ商人を接待すべく和風の懐石料理を出したが、食べ方の分からない相手はとまどうばかり。そこで中華料理に倣って大皿に盛り合わせたところ、今度は喜んで食べた。
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