悪い円安と良い円安、どう違う?
Japan In-depth / 2022年5月7日 18時0分
神津多可思(公益社団法人 日本証券アナリスト協会専務理事)
「神津多可思の金融経済を読む」
【まとめ】
・かつての日本経済は輸出企業の業績好調による賃金上昇、消費全般が拡大し「良い円安」が期待できた。
・「悪い円安」とは円安によってGDPの成長が抑制されてしまうことを指す。
・常に経済の発展が実現するよう、一番良い金融環境を機動的に実現するのが金融政策の真骨頂であろう。
ここへ来て急速に円安が進み、「悪い円安」ということがしばしば言われるようになっている。ちょっと前までは、円高こそ悪で、それが日本の低成長の原因の1つと言われていた。また、現在の円安についても、全体としてみれば日本経済にとってプラスとの見方もある。悪い円安と良い円安。どう違うのだろうか。
■ 円高はどうして悪だったか
輸出企業にとっては、外貨建ての輸出価格が変わらない場合、円高になると、手取りの日本円建ての収入が減るので、それは売上減になり企業経営の打撃になる。だからこそ、短期間で為替レートの円高が進むと、輸出企業からはいつも不満の声が上がった。
もっとも、輸出先の国がインフレで、現地の外貨建て価格を引き上げることができれば、それによって円高分が相殺でき、円建ての収入が減らないことも考えられる。これまで、傾向的に日本のインフレ率よりも海外のインフレ率の方が高かった。そうした状況において、もし少しの円高でも困るということだとすると、それは、海外市場での競争が厳しく、現地のインフレをカバーできるだけの外貨建ての輸出価格を引き上げが難しかったからかもしれない。そうだとすれば、それは、要するに日本の輸出企業の価格競争力が低下してきているため、少しの円高でも悪ということになったと言うべきだろう。
そういう場合には円安は助かる。良い円安というのはそういうことなのではないか。円安によって輸出数量を減らさなくて済む、さらには大きな円安であれば、現地通貨建ての価格を引き下げて、輸出数量を増やせるかもしれない。輸出企業の業績好調は、そこで働く人々の賃金の上昇に繋がる。それを起点に、消費全般が拡大し、直接は輸出をしない企業にも恩恵が広がっていく。かつての日本経済ではそういう展開が期待できた。良い円安の余地が大きかったと言える。
■ 悪い円安
ところが、円安になってもかつてのように輸出数量が増えなくなると話は違う。さらに現在は、米中対立、ロシアのウクライナ侵攻などを背景に、コロナ禍後に向けて各国の経済が正常化の過程にあるにも関わらず、日本からの輸出が加速するというような環境にはないようだ。
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